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ある日、猫を拾った。
いや、正確には猫が押し入ってきた。
僕が住んでいるアパートは、猫で有名な東京の谷中まで38歩のところにある。当然、アパートの周りにも猫は多い。
誰もいじめない事を知っているので、ノラ猫どももふてぶてしい。
体格も良く少し精悍な顔の黒猫を、僕は勝手に『ボス』と呼んでいる。
ボスはいつも、アパート前の路地の真ん中で寝ているので、僕は彼を跨いで駅に向かう。
彼は、チラッと僕を見上げるだけで微動だにしない。
もう一匹、ノラとは思えないほど綺麗な白猫がいる。彼女(おそらく雌)はミーと泣くので『ミー』と呼んでいる。
ミーのお気に入りはアパートの塀の上だ。僕が出入りする度に、目が合うので、黙って通るのも味気ないかと思って声をかけていたら、そのうち彼女も「ミー」と返してくれるようになった。
他の猫もよく見かけるが、特にこの二匹とは良く会った。
ボスとミーは結構仲がいい。時々、一緒に遊んでいるのを見かけた。
ところで、僕はと言えば、この歳(28歳)で人生を捨てたようなものだ。小さな流通系の会社の事務をやっているが、毎日のルーチンワークを淡々とこなしているだけだった。
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