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「なんで脱ぐんだよ!?」
ベッドの上を尻ずさりながら、理人さんが俺を足蹴にする。
「なんでって……ヤるからですけど?」
シャツをえいっと脱ぎ捨てて俺が上半身裸になると、理人さんは、ごっくんと喉仏を揺らした。
あっさり壁際まで追い詰めてやると、ひいいぃ……と情けない声を上げ、首を仰け反らせる。
うーん、おもしろい。
「だ、だからってなんで脱いでっ……」
「暑いでしょ、今日」
昨日までの冷え込みは、どこへやら。
冬将軍の気まぐれか、一気に気温が上がり春のぽかぽか陽気に包まれた今日、日が落ちて外の気温が下がっても、部屋の中はまだ暖かい。
これからする予定の運動の内容を考えると、服を脱いでいても汗ばむくらいかもしれない。
「せ、せめて電気消しっ……」
「嫌です。消しません」
絶対。
「な、なんでっ……」
「誘ってきたの、理人さんの方じゃないですか」
「うっ……」
「なのになんで、俺が無理やりやろうとしてるみたいになってるんですか」
「だ、だってぇ……っ」
ベッドの上での容赦ない攻防戦。
理人さんがこんなにも怯えているのは、ハ・ジ・メ・テ・だ・も・の♡ ――なんてことはもちろんなくて、
ただ、
「恥ずかしい……!」
からである。
え、なにがそんなに恥ずかしいのかって?
それは――
「しょうがないだろ! 裸の佐藤くん見るの、久しぶりなんだから!」
理人さんは、寒いのが大の苦手だ。
だから、冬の間の俺たちのセックスは、ほとんどが服を着たまま。
正直俺は物足りないと思うこともあるけれど、我慢の後にこれが待っていると分かってからは、着衣セックスもむしろ大歓迎。
「ぬ、脱ぐな!」
「はいはい」
「おい、脱がすなって……んッ」
「はいはい」
「お、俺は暑くない……ッあ」
「はいはい」
すっかり春の風物詩となった反抗期(?)の理人さんを適当に宥めながら、淡々と服を脱がしていく。
理人さんは「あっ……」とか「待っ……」とか「やぁ……っ」とか言いながら頑張って抵抗していたけれど、数年間の修行を経て、殿堂入りレベルの手際の良さを身に着けた俺に敵うはずがない。
着々と増えていく肌色を見下ろし、ウキウキしながらズボンに手をかけた――ところで、ガシィッと手首を掴まれた。
「もう、今度はなんですか」
「シャ、シャワー!」
「はい?」
「まだシャワーしてない!」
「そうですね。後でたっぷり一緒に浴びましょう」
「あ、ちょ、あっ……ひあ……ッん」
首筋をベロンッと舐めると、理人さんはかわいく喘いだ。
いつもならここで、「このやろう」とか「くそう」とか、ダメージゼロの悪態を吐きながら素直に負けを認めて俺に身を委ねてくれるのに、今日はまだ折れる気配がない。
「なんか例年比2割増しくらいで恥じらってくれてますけど」
「は!?」
「なにかあったんですか?」
夕飯を食べ終わるなり、「しよ……?」と上目遣いで俺を見上げながら股間を撫で上げてきたのは、理人さんの方なのに。
「だ、だって……」
「だって?」
「俺……太った」
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