春が、来た

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 一週間後―― 「ふっ……ふっ……」 「はあっ……はあっ……」  身体が上下するリズムにあわせて、湿った息が漏れる。  忠実に再現される三寒四温の日々に翻弄されながらも、取りまく空気は冬のそれとはまったく違う。  火照った身体を撫でる風は、乾いていて気持ちがいい。  日が昇ったばかりの土曜の早朝、あたりに人気はほとんど少ない。  でも、俺は寂しくない。  一人じゃないから。  俺の隣には、大好きな―― 「ちょ、ちょっとタンマ……!」  恋人が――と思っていたら、いつの間にか理人さんの身体は俺の背後で二つ折れになっていた。 「ごめんなさい。速かったですか?」  慌ててUターンして激しく上下する背中をさすると、理人さんの唇がへの字に曲がる。 「謝るな……ムカつくから……っ」 「プッ、ごめんなさい。そろそろ帰りましょうか。いい具合にお腹も空いたし」  理人さんはちょっとだけ唇を尖らせてから、こくんと頷いた。  擦れ合う木の葉の音を聞きながら、乱れた呼吸に逆らうようにゆっくりと歩く。  ボトルに残っていた最後の水を喉に流し込むと、理人さんが俺を見上げた。 「音楽家のくせに、なんでそんな鍛えてんだよ?」 「音楽家だからこそです。そう見えなくても、ピアノを弾くってけっこう体力勝負なんですよ? 長時間続けて練習してるとどうしても姿勢が崩れてくるし……だから、体幹を鍛えておかなきゃいけないんです」 「ふぅん、そうなのか」 「まあ、俺には別の目的もありますけど」 「別の目的?」 「体力つけて、理人さんを一晩中ノンストップで啼かせてみたいっていう……あたっ」 「ばか!」 「って、ちょ! ずるいですよ! フライング!」  殴られた腕をさすりながら、ダッシュで逃げていく理人さんを追いかける。  アハハハハ。  ウフフフフ。  頭の中で勝手にアテレコしながら、輝く三十路の青春を謳歌する。 「んっ……ん……っ」  玄関先でようやく追いついたフリをして、無理やり唇を奪った。  汗ばんだ髪に指を差し込み、逃げ道を塞ぐと、理人さんは自ら舌を絡めてくる。  押しつけてくる股間の熱が、愛おしい。 「な……このまま……」 「する?」 「……うん」  シャツの間にそっと手を入れると、しっとりと濡れた肌が吸い付いてきた。  背中の凹凸を辿りながら、ゆっくりと北上していく。  途中で手のひらを翻し胸の頂を弾くと、細い身体がビクンと跳ねた。 「あ……ッ」  漏れ出る声をごまかすように、理人さんがキスを強請る。  噛みつくようなキスはどんどん深くなり、溢れる唾液が混じり合う。  触れ合う熱は少しずつ、だが確実に大きくなり、互いを求める。 「んんっ!」  そっと撫で上げると、理人さんは甘い声で啼いた。  俺の手を取り、自らそこへと導いていく。  ズボンと腹の隙間に差し込まれた指に、蒸れた空気が纏わりつく。  ふたつのアーモンド・アイが、濡れた世界に俺を閉じ込める。 「佐藤くん、も、触って――」  ブブブブブブブ。
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