Glück des Lebens./人生の幸せ

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 漸く目覚めた脳味噌だったが、今度は腹も目覚めたのか、ぐぅぅうと地を這うような音で腹の虫が空腹を教えてくる。  何か食い物があっただろうかと、冷蔵庫の中身を思い浮かべながら簡易キッチンのようなそこに置いた冷蔵庫を開けて絶句する。  冷蔵庫というのは基本的に飲食物を保管する為のものだが、どうして青カビや赤カビが生えた野菜や肉が保管されているのだろうか。  朝から見たくない光景を目の当たりにして深々と溜息を吐いた青年は、これだけは昨日買い求めたために安全である事が証明されているミルクが入ったボトルに直接口を付ける。  すべてを飲み干し、その辺に放り出してあったゴミ袋を大きく開けて冷蔵庫の中の食べられないものをすべて袋に詰めていく。  こんな所をマザーやシスターが見れば絶句するどころか、涙を流して神に許しを請いかねないと気付き、芽生えた罪悪感から一瞬だけ目を閉じて黙祷を捧げ、気分を切り替えてそれらを処分する。  贅沢を言えば朝食を食べたかったが、今片付けている冷蔵庫が日常茶飯事と化している為、ロクに食うものなど当然無く、クロスバイクに乗って出勤する途中にファーストフードで買って食べるしかなかった。  今日もまたいつものようにMの字がでかでかと書かれた看板のお店にお世話になるかと、何となく寂しい思いを感じつつ、出勤するためにシャツに着替えネクタイをぞんざいに結んでジャケットの袖に腕を通せば、気分はすっかりと刑事に切り替わる。  散らかり放題の部屋は次の休暇に片付けると苦笑した青年は、染みの浮いた壁に立てかけてある、唯一金を掛ける対象である、目が覚めるような鮮やかなブルーの車体のクロスバイクを肩に担ぎ、自転車に乗っても邪魔にならない短いブルゾンを着込んで革のグローブを着けて寒さに備える。
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