Glück des Lebens./人生の幸せ

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 ウーヴェの仕事は市街地の一等地にクリニックを構える精神科のドクターだった。  若くして開業に漕ぎ着けたのだが、当初は駆け出しの精神医の元を訪れる患者がいるはずもなく、祖母から受け継いでいた財産を食いつぶす事になるだろうと思っていたが、歴史の教科書にも載る先祖を持つ女性を内密に診察し、彼女が回復したのを切っ掛けに資産家や実業家と言われる比較的金にゆとりのある人達を診察するようになってきた。  飛び込みの患者などはおらず、皆それぞれがお抱えの主治医からの紹介状を持参でやってくる為、いわゆる町医者のような忙しさとは無縁だった。  今日もそんな患者達の診察の予定が入っていたが、特に今診察に来る患者で注意を払うべき人はいなかった為、数は多いが気分的には楽だった。  愛車のキャレラホワイトのスパイダーを走らせ、クリニックのあるビルの地下駐車場に滑り込み、所定の位置にスパイダーを納めて車から降り立つ。  「おはようございます、ドクター」  「おはよう」  顔馴染みの警備員の挨拶に笑顔で返し、駐車場からも直接行けるエレベーターで3階のクリニックまで上っていく。  いくつかオフィスの事務所がある3階で降り、廊下の突き当たりの、木で出来た見た目は重厚でセキュリティは万全のドアのセイフティロックを解除しようとするが、ドアが僅かに隙間を作っていた。  このクリニックに勤務するのは自分と秘書兼受付をしてくれている、カミラ・リーベントと言う名の女性だけで、後は定期的に来る清掃業者だけだった。  一足先にカミラが出勤しているのかも知れないとドアを開けたウーヴェは、予想に反して室内には誰もいない事に気付き、メガネの奥の双眸を見開く。  「フラウ・リーベント?」  呼びかけながらドアを後ろ手で閉め、一体どこに行ったのだろうと待合室に視線を巡らせるが、小柄でいつも明るい笑顔で患者にも評判の良かったカミラの姿は見あたらなかった。
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