Glück des Lebens./人生の幸せ

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 警察署に精神科のクリニックで変死体が発見されたとの一報が入った時、リオンは己のデスクに尻を載せて同僚と先週の地元クラブの試合について盛り上がっている時だった。  「リオン、行くぞ」  「ヤー」  ボスの一声に元気よく返事をし、手を振る同僚に帰ってきたらビールを奢れと指で命じるが、早く行けと急かされた為に舌を出して部屋を飛び出していく。  「ボス、現場はどこですか?」  「市庁舎広場に面したアパートだ」  「へー。一等地にあるアパートに入ってるクリニックってどんな診察をしてくれるんでしょうね。俺、一度行ってみたいなぁ」  「仕事でだが今から行けるぞ」  「確かにそうだ」  警察車両に乗り込み、リオンの運転で現場のアパート-実は車を使えば少しだけ遠回りになる-に向かった二人は、初動捜査の為に応援で来ている制服警官からの敬礼を受け、駐車場入口横の詰め所に顔をだす。  「すっげ、金持ちばかりだ」  「リオン?」  「スパイダーにAMGにアルファロメオ…」  駐車場ゲートの向こう、整然と並ぶ車種を呼び上げたリオンに、ここいらはお金持ちがオフィスを構えていたりそう言う人種を相手に客商売をしている店が多いからなと素っ気なく返し、リオンの襟首を掴んで引きずっていく。  「ボス?」  「ここはこいつらに任せて現場に行くぞ」  小さな子供や犬猫じゃあるまいし襟首を掴んだまま引きずるなと、己よりも遙かに背の低いボス、ヒンケルに控え目に苦情を述べるが、小気味よいほど無視されてしまい、ちゃんと歩きますと宣言して上司の手の内から逃れる。  駐車場から現場になったフロアまでは直通でいけるエレベーターがあり、二人で乗り込んで先に乗っていた警官から事件の概要を聞き始めた時、エレベーターが目的のフロアに到着した。  ビルの外観は随分と重厚だったが、このフロアに限って言えば、廊下の大きめの窓から入る日差しが床を照らし、まるでどこかの城の廊下を思わせる雰囲気が漂っていた。
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