【喫茶 青猫のピアノ】の告白

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「まずは本ッ当にごめんね、この間のこと」 「…………いえ、それはもう良いです」 「ホント? いやぁ〜、みねちゃんはやっぱり優しいね」 深々と頭を下げられたかと思えば、許しの言葉を投げた途端にパッと明るく調子の良いことを言う。 この男の切り替えの速さから本当に反省しているのかと疑い怒りたくなるが、今は抑えるべき時だと自分に言い聞かせ、 「改めて確認なんですが……姉は、あの時のことを知ってしまったんですよね?」 「うん」 「何故姉に話してしまったんですか。あの時姉は寝ていて、知らないはずだったのに」 「う〜ん……まぁ、確かに最初はバレてなかったし俺も話すつもりもなかったんだけど。あっちから先に気付いて問い詰められちゃってね、んで白状したって経緯」 目を丸くした。 自分も猫町も話していない中、いち自ら気付いていたというのか。 「散々叱られたよ〜。“ウチの大切な妹に何手ぇ出してんの”とか、“いい加減だって思ってたけどここまで我慢が効かない男だなんて思わなかった”って。ヒドくない?」 「え、あ、あの、ちょっと待って下さいっ!」 「ん、どしたの?」 「不躾なのを承知でお尋ねしますが……猫町さんと姉は、付き合っているんですよね?」 「ん? 違うけど」 「な、なら……猫町さんは、姉のことを……その……す、好き、なん、ですか……? い、異性……として……」 「俺が? いちのこと?」 それ以上言葉にするのは困難であった。恥ずべき行為だと知った上で行動にするのは、なんと羞恥の熱の集まることか。 対して猫町はきょとんとし、やがてぷっと吹き出すように笑った。 「あっはは、違うよ。俺もいちも、そんな目でお互いを見てないよっ! もし仮にいちが俺のことを好きだったとして、恋敵であるはずのキミのためにあんなに怒ったりしないし、何よりこんな場を設けたりしてくれないって」 「え……、え……?」 「いちがこの場を設けてくれたのは、想いを伝える前に大切な妹(キミ)に手を出したのを謝れって。それでさっさと想いを伝えて来いって」 すぅっと猫町はその薄い唇から深呼吸をし、 「みねちゃん、キミが好きなんだ。順序が逆になっちゃったけど……キミさえ良ければ、俺と付き合って欲しい」 向けられる、真剣な眼差し。それはいつか目の当たりにした、あの眼差しと同じものだった。 ただでさえ情報過多で処理が追い付いていないのに、そんなものを向けられてしまっては…… 「あはは、みねちゃん顔真っ赤で口パクパクさせて。金魚みたいになってるよ」 「〜〜〜〜〜ッ!!」 「今すぐ返事をくれ、なんて言わないよ。キミなりの事情や夢も、理解してるつもりだからさ」 その時、はたと思い出した。 今まで、ずっと夢を追いかけ続けてきた。 “警察官になりたい”という夢――そのために勉強も部活も真剣に打ち込んできた。 一刻も早く警察官になって、いちを楽にさせたくて。 だから他のことに気を取られている暇なんてない、そう思い続けていた。 「だけどキミが返事をくれるまでの間、俺もそれなりに攻めさせて貰うよ」 「なっ……諦めるんじゃ、ないんですか!?」 「“諦める”なんて、一言も言ってないよ。キミには夢を叶えて欲しいけど、同時に俺のことも視野に入れて欲しいなぁって」 「なんて、自分勝手な……」 「自分勝手とは心外だなぁ。キミが夢と恋を両立出来るよう、お手伝いするんだよ」 “だから、楽しみに覚悟しててね?” 悪戯に笑うその顔は、幼い頃に読んだおとぎ話に出てくる笑う猫のようで。 腹立たしくもあり、憎らしくもあり、どこか甘さを含んだ楽しみもあった。
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