【喫茶 青猫のピアノ】の告白

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『キミがみねちゃんかぁ、よろしくねぇ〜っ!』 高校の部活仲間だという姉の友人に出会ったのは、中学1年の初夏頃だったと思う。 彼に対する印象は、今とあまり変わっていない。 人当たりの良さそうな笑顔に、物腰柔らかな態度――まだ存命だった祖母はたちまち彼を気に入って、よく夕飯を振る舞ったりもしていたが…… みねは最初から“うさんくさい男”だと感じ取っていた。同時に、あぁいう軽薄そうな人物は苦手なタイプだとも思った。 だからなるべく、最小限の会話で済ませ、自ら近寄ることも話しかけることも極力避けていた。猫町もそれに気付いていたようで、最初の頃こそあまり話しかけたりして来なかった。時折「最近学校どう?」くらいの言葉をかけてくる程度で。 なのに………… 『宿題、何か解らないトコある? 俺ケッコー頭良いから教えてあげられるよ。特別サービス!』 『ここはねー、こうしてこうして……こうやって描くんだよ』 いつの間にか、勝手にあっちから話しかけてくるようになった。 普段から何を考えているのか解らない相手だ。最初の頃は戸惑いもしたし、早く会話終わってくれとさえ思ってもいたが……慣れというものは恐ろしく、考えるだけ時間の無駄だと悟るようになってからは上手く流せるようになった。 現に宿題――徳に美術の課題を持ち帰った時は、すごく助かった。 美術が不得意な自分に対し、猫町は姉と同様……いや恐らくそれ以上に美術の腕が良い。 以前、学校から帰って来てリビングに足を踏み入れると課題に取り組んでいた猫町を見たことがある。祖母はもうこの頃には亡くなっていて、いちは買い忘れがあるとかで再び出かけてしまい――家にはふたりきりだけだった。 邪魔にならないよう静かに冷蔵庫から飲み物を取り出し、ちらりと見た猫町の姿。課題に無心でかじりつく、その姿は獲物を狙い定め、食らいつき続ける“猫”そのもののようだった。 普段の猫町からは、絶対に想像できない。 あれから数年経つが、未だ鮮明に思い出せる。 ずっと見ていられるような、そんな錯覚さえ覚えてしまった。
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