【喫茶 青猫のピアノ】の告白

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「たっだいま〜!」 「お帰りー。あれ、みねも一緒だったんだね」 「ただいま、お姉ちゃん」 「ん、お帰り。まだ夕飯の支度してるから、今の内に着替えておいで」 「分かった、着替え終わったら手伝うね」 そう言って早々に自分の部屋に駆け込み、制服から過ごしやすい部屋着に着替える。 部屋を出る直前。ちらりと全身鏡が視界に入り、ふと足の動きが止まってしまった。 鏡に写る、自分の今の姿――何の変哲もない、良くも悪くも洒落っ気のないラフな姿。 (少し、地味すぎではないだろうか) そう思うと同時に、頭に浮かんできたのは猫町の姿で――とっさに我に返ったみねは、カッと耳たぶを熱くし、その熱を振り払うように頭を左右にブンブンと振り回した。 (いやいやいやっ、何であの男が浮かんでくるのッ……!? ウチでご飯食べてくなんて、もう何回もしてることだし、今さら気にするようなことなんて何もないじゃないっ!!) バカじゃないのと自分を叱責し、気を取り直して部屋のドアノブに手をかけた。 リビングを出て、すぐそばの台所では猫町がいちの手伝いをしていて――ハッと冷め切れずにいた熱が、スゥッと引いていくのが分かった。 あまりにも自然で、見慣れているはずの、あたたかな光景。 (そうだ……あの2人は、そういう仲なんだよね) 忘れていたわけじゃない。そして、2人から明確な言葉を聞いたわけでもない。しかし“そういう関係”なんだということを、みねは肌で感じ取っていた。 「あれ、みね? どうしたの、そんなとこでボーッとしちゃって」 「あっ――ううん、ゴメン何でもない。今手伝うね」 「ナニナニ〜、俺に見惚れちゃってたとか?」 「ちょっと。やめなさいよ今フザけるのは」 (そうだ、ちょっとは空気を読めこの無神経男ッ!) そう悪態をつきつつも、みねは内心ホッともしていた。 無駄なことを考えず、囚われずに済んだからだ。 高校時代――同じ部活仲間として出会って以来、軽口を叩き合えるほど仲の良い2人。 祖母が亡くなり、姉妹2人で生きなければならない現実を突きつけられ――特に美術関連の仕事を志し美大に進学するのが夢だったいちにとって、早々に就職する形で断念せざるを得ない状況下だったことを思えば、どれだけ辛かっただろう。 そんな時、いつもさり気なく来てくれてそばにいてくれたのは……姉の支えになってくれたのは、他でもない猫町であった。 悔しいが、少なからずいちにとって励ましになってくれたようで。そのおかげで前を向いて、裕福ではないにしろ幸せな今の生活へと繋ぎ止められた。 言葉にせずとも、互いを大切に想い合い支え合ってきた2人を見てきたから分かる。 猫町はいい加減な上にテキトーで腹の立つ男だが……姉のいちをこれからも幸せに出来るのは、彼しかいない。彼なら姉を泣かせたりしない。 苦労を重ね自分の知らないところで涙を流したであろう姉の幸せを思えば、充分じゃないか。 そして自分には、今得体の知れない熱に浮かされている暇なんてない。 みねはそう自分に言い聞かせると、姉たちの手伝いに加わるべく台所へと歩み寄った。
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