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東に向いている窓の外を、でっぷりと太った茶トラの猫が通過していく。右から左へと悠然と歩く姿は、ファッションショーのモデルのようでもある。もうそんな時間か、と思った。
マンションの隣は駐車場で、間仕切りのブロック塀が窓のすぐ外側にある。住民の少ない街外れのせいか、防犯意識と同じぐらいに塀の背は低く、一階にあるこの部屋の窓の真ん中あたりまでしかない。イスに座る位置から少し見上げる高さの塀を、茶トラは通って行ったのだった。時計は午前二時を示している。いつも通りだ。
抜き足でキッチンへ行くと、冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、妻を起こさないようにまた自室へと戻った。これから朝までにニュースサイト用の記事原稿を一件、まとめなければならないのだ。
栄養ドリンクを体内へ流し込んでいると、塀の上を今度は全身真っ白の猫が歩くのが見えた。こいつもおなじみの顔だが、現れる時間は不規則だ。昇った朝日のまぶしさの中、逆光を受けながら神々しく闊歩する姿が印象に残っているが、真っ暗闇に白く浮かびながら窓をスクロールしていくこともあった。
ほかにどんな猫が窓の外を通るか、思い出してみた。背中の一部に黒い斑模様がある猫、ベージュのような淡い色をした猫、濃いめのキジトラもいた。数えてみると意外に多い。窓の外にある塀は、近所猫たちの生活動線なのかもしれない。
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