猫の時刻表

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 古いノートパソコンなので、同じ画面で放置するだけでも冷却ファンが定期的に動く。三月の闇夜に響く唸り声。そしてモニターには、翌朝が締切の新たな原稿の発注メール。さあ書くか、と声に出して自分を鼓舞してみるが、どうにもスイッチが入らない。  春から原稿料が下がることになっており、それがスイッチ故障の一端だということはわかっている。今さらうじうじしても仕方ない。値下げに甘んじるしかなかった、そんな仕事にしがみつくしかなかったのだ。アウトソーシングが充実し、高品質ながら安価で記事を仕上げられる人間が全国で手を挙げている。ちょっと文章が書けるというだけでは、ライターという仕事は成立しなくなった。  イスの背もたれへ体を預けると、窓の外にある塀が目に入った。夜中でもカーテンを閉めないのは、独身時代からの癖だ。夜明けが近づいて白んでいく様子は、時計を見るよりも締切への切迫感があっていい。その窓のフレームに、ベージュの猫がインしてきた。泥棒のように警戒する足取りで、ふと目が合うと塀の上で前脚を立てて座った。  まだ0時を回って間もない時間で、またもやイレギュラーの登場だ。そうだ、と昨日の時刻表を思い出して散らかったデスクを見渡すと、書類の下に目的のメモ帳を見つけた。書いた覚えのない追記がある。
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