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『10:07 赤い首輪の白』
『13:53 太った茶トラ』
細いペンを好んで使う祥子の細い字だ。時間の把握が詳細で、猫の描写も特徴をプラスして捉えている。祥子らしいなと思った。このイスで仕事をしながら、見上げた窓の外に祥子も猫たちを見てきたのだろう。このメモを猫の時刻表だと理解したから書き足したのだ。なんだよ。楽しいことしやがって。
『00:08 脚の長いベージュ』
祥子への対抗心か、時間も猫の特徴もしっかりと時刻表に追記した。こういう書き方が正しいのかはわからないが、少なくとも祥子は喜ぶだろうことは想像できた。
気配を感じて窓の外を見ると、ベージュが伸びをして去っていくところだった。所在を失った俺は改めてキーボードに向かってみた。運指が不思議と軽やかだ。らしくないな、と苦笑しながらも、一年に何度かはこういった「超前向き仕事モード」が全開になるからこの仕事に向いている気がする。どうせほかにやることもないし、できることもない。
この後、いつも通りの時間に茶トラがやってきただけだったことも、原稿に集中できた理由かもしれない。
『02:03 太った茶トラ』
時刻表はもう一行増えただけで、原稿はあっけなく上がった。アドレナリンだかドーパミンだか、脳みそ全体がポジティブな液体に浸かっている感覚が続いている。窓の外を眺めたり、メモ帳を読み返したり、繰り返しているうちに朝7時を迎えた。
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