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「いいなあ」
天井を見つめながら、思わずつぶやいた。言葉にしてみると、どういうわけか身軽になった気がした。俺はこの言葉をずっと我慢していたようだ。言いたくても言えなかったのは、この言葉だったようだ。
誰かを羨むなんて、見苦しいからやらずに生きてきた。でも、いざ芽吹いた羨ましいという感情は、あっという間にたくましい幹に育つ。祥子のあらゆる要素が羨ましくて羨ましくて、そして反比例するように自分のことがどんどん情けなく思えてくる。
何かにむせそうな感覚があったので、慌てて全身を使って布団をはねのけた。カーテンから差し込む光線に埃が躍る。力強くベッドから降り立つと、引き戸を開けて書斎へと向かった。
「おはよう?」
そう言った祥子の表情は、驚きから笑顔へ移行する中間地点のようだった。思わず俺も無理やりの作り笑顔でおはようと言った。
「どうしたの?」
「コンペ通過したんだろ? 声が聞こえたから」
すると祥子は改めて、体ごとこちらへ向いた。
「え、あ、ありがとう」
「なんかすごいよな。羨ましいよ」
「それ言うために、わざわざ起きてきたの?」
「それに比べて俺はダメダメでさ、ボツにもなるわ、ギャラも下がるわ、ここんとこ散々なんだ」
祥子は返事を呑み込んだようだった。
「しばらく生活費が足りないかもしれないけど、祥子に頼っていいかな」
真顔のまま、祥子は動かない。おもむろに左手を動かすと、右腕の力こぶのあたりをぱちんと叩いた。
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