【ショート小説】しゃべ部 ~豚骨のある声優~

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 だから夏には少し遠い河原まで行って練習する。  そして夏から秋にかけて虫の声が響き渡る。  秋が深くなるとドングリがパチパチと乾いた音を立てて落ちてくるので、頭に時々直撃を受ける羽目になった。  そして冬は風が枝を揺らし、落ち葉を巻き上げる音が響く。  春が近づいて来たため、風は和らぎ1年で一番静かな季節かも知れない。  雑木林は、自然の防音材の役割をするので発声練習には持って来いだ。  2人は示し合わせたように、林の中へとどんどん入って行く。 「行くぞ!! 」  中央付近で足を止め、5メートルほど間合いを取って向き合った。  文彦は身をかがめ、上目遣いに睨みながら挑むように気合いをかける。 「ふははは!! 人間ごときがこの大魔王フォレストに敵うものか!! 」  勇者は大剣を振りかざし、大魔王に斬りかかる! 「そりゃああああぁ!!! 」  康介は体を開いて躱すと、両手を突き出して呪文を唱えた! 「オオオォ!! ライディ―ン!! 」  耳を劈くような雄たけびと共に文彦を落ち葉の上に吹き飛ばした! 「ぐあぁ!! 」  ゴン! 「うぐっ! 痛ってぇ!! うあぁ! マジ痛てえ! 」  木に激突して地面に投げ出された。  後頭部を押さえながら身もだえる。 「おい! 大丈夫か? 」  しばらくうずくまって唸っていたが、痛みが引いてくると、立ち上がって空を見上げた。 「ふう。こんなことを毎週やって来たが、これからは…… お互い忙しくなるだろうから、ネットでやろうな」 「ああ。おれは、防音材を買ったよ。うちはマンションだから、壁に貼って、デスク用も用意した」  「しゃべ部」という音声投稿サイトがあって、そこで声優登録したり、ラジオ番組を開設したりすることができる。  15年前に開設されたが、登録者数が伸び悩み、一度閉鎖された。  運営会社が吸収合併を繰り返し、現在はリニューアルして再出発したばかりである。 「はあ。いてて…… この続きはネットでやろう。やっぱり体を動かした方が臨場感が出るけどな」  康介はうなずくと、 「頭、冷やした方がいいぞ。じゃあ、後で連絡するからサンプル上げをやろう」  と言うと、帰って行った。  最近は投稿サイトの利用者が急激に増えていると聞く。  イラスト、小説、動画を上げる専門のサイトがあるように、音声を専門に扱う投稿サイトもいくつかある。
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