【ショート小説】しゃべ部 ~豚骨のある声優~

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 だが、音声を投稿することに抵抗を感じる利用者が多いためか、なかなか運営が難しいようだった。  しゃべ部では、声優登録をしたり、公式ラジオ番組を立ち上げたりしてプロを目指すことを目標に設定している。  トップページには様々なジャンルの記事が上がり、クリックするだけでコンテンツが再生される仕組みである。  文彦のように声優を志望する利用者が多くて、登録すると仕事の依頼が来る場合がある。  声優には、ランク付けがあり、最低ランクのジュニアランクは15000円の基本ランク料が保証される。  声も著作物なので、個別にロイヤリティを請求することも可能である。  これは、声優という職業が世の中に大きく取り上げられるきっかけになった、1973年のデモとストライキに始まる長い闘争の結果獲得された権利であり、声優の社会的地位を保証するためのシステムでもある。  音声投稿サイトでの活動も、まだ年月が浅いため、仕事の依頼が来ることはなかった。   「康介! 仕事の依頼が来たぞ」  パソコンの前でスマホをスピーカー設定にしたまま喋っている。  無料通話サービスがあるので、こうしてお互いの声を確認してから、本番の録音をしている。  パソコンを立ち上げると、いつもの習慣で通知ボタンを押してメッセージを確認する。  すると仕事依頼の通知があったというわけだ。 「おっ! やったな。どんな内容だ? 」 「新作アニメの声優募集だ。オーディションを受けてみるよ」  エントリーすると、事前課題が送られてきた。  その練習用シナリオ原稿を読み上げてみた。 「『戦国の魔道士』か…… 流行りの和風ファンタジーかな。主人公は『ジクウ』というお坊さんのような名前。このシナリオに登場するのは4人か…… 全部演じ分けるとなると…… 」  ぶつぶつ呟きながら、声のイメージを練り上げる。
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