【ショート小説】しゃべ部 ~豚骨のある声優~

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「まず主人公のジクウは男。熱血の若武者という感じがする。トーンは少し高めで快活な喋り方かな。そして味方武将のアシュラだけが女の子だ。戦国時代の戦場に女の子がいることは考えにくいんだけど、ファンタジーだからね…… こちらも若くてトーン高めかな。まくし立てるように喋ると良いかもしれない…… 魔導軍指揮官ニッコウは男で年配だろうな。トーンを落として重厚な喋り方。ゆっくり重々しく言えばいいかな。4人目は敵武将クジャク。こちらはクールな感じがする。口角を広げて下げ、雰囲気を出せばいいだろう」  部屋の中を歩き回り、刀を振る動作をしながらセリフのイメージを作り上げていった。 「シナリオはどんな感じ? 」  康介が聞いてきた。 「良くある呪術使いが出てくるファンタジーを、戦国時代と掛け合わせた、和風ファンタジーってとこだな」 「面白そうだな」  文彦は、シナリオに目を落したまま考え込んでいた。 「呪術を扱う和風ファンタジーはシナリオを書きやすいネタだ。魔導師としたのは、大名など位が高い者に仕えることと、剣と魔法の洋風ファンタジーも意識しているのかも知れない。何でも盛り込んだ感じがするタイトルだな」  自分でも何本か書いてみたことがある。  投稿サイトで発表している作品もあった。 「それと、戦国武将は人気がある。戦国時代には魅力的な人物が沢山いるから、ネタには困らないだろうな。失敗が少ない切り口だ。プロらしいと言えばそうなるが…… 」 「何か引っかかるのか」 「いや。これで良いはずなんだが、何かが引っかかる」  お互いに唸った。  しばらく沈黙して、 「このシナリオに豚は入っているのか? 」  いきなり突拍子もないことを康介が投げかけた。 「それが核心だろう。豚が入っていない豚骨ラーメンは、タダの塩辛いラーメンだ。そんなシナリオはタダの紙切れ。そんなアニメは画面に色を映しているだけじゃないのか」  声のトーンが熱を帯びてくる。  康介もずっと共に練習してきたのだ。  声優という仕事に、文彦に負けない誇りを抱いている。 「そうか。自分でイメージした世界が、俺の中にあるから違和感を感じるのかも知れない。出てくるセリフがどこかで聞いたようなやり取りで、物足りなさを感じていたのか」  こんなやりとりをしたものだから、頭の中がモヤモヤしたまま床に就いた。
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