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オーディション当日。会場には30人ほど集まっていた。
「見たところ自分と同じか少し上くらいの歳の人が多いな」
若干名募集、と要項に書いてあった。
どの役を演じるかは後で決めるのかも知れない。
控室に、受付番号順に座っている。
前から順に一人ずつ呼ばれて行った。
「これだけの人数を捌くのだから、実際に演じる時間は少ないだろうな」
そして、文彦の番が来た。
「17番、荒井文彦です」
試験官は3人いる。
30代の男女、もう1人は40代後半といったところだろう。
意外と少ないと思った。
「では、2ページの3行目から6行目までを演じてください」
「はい」
こうして人前で演じたことは少ない。
練習は沢山してきたが、高校のしゃべ部で発表する機会はほとんどなかったし、オーディションは初めてである。
緊張はしているが、初めてだから失敗して当然だと自覚しているせいか、気負いはなかった。
指定されたフレーズは、ジクウとニッコウの会話で、意見が激しく衝突する一触即発の緊張感を感じさせる場面だった。
「ふううぅぅぅ…… 」
文彦は深く息を吐き、電撃が走ったように立ち上がると、男の30代と思われる試験官を見据えた。
「あんた…… 」
燃えるような視線と、指先を眉間に突き刺す勢いだった。
「戦国武将はただのお飾りじゃないか!!! 俺たち魔導士がいなければ半刻と持たないぞ!! 」
耳をつんざく大声でまくし立てる!
「控えよ。ジクウ。お前は東軍の駒の一つに過ぎぬ。指揮に従い魔導の業を使うのみだ」
こちらは穏やかに、余裕を持って受け流すような口調である。
口角を開いて下げ、知的な印象の声を作っていた。
「それが驕りだと言ってんだ! 俺たちは駒じゃねぇ! 魔導士は一騎当千の誇り高き戦士だ!! 」
部屋を出て行こうとする。
「待て…… 勝手な行動は許さん! 出て行くならこのニッコウを倒してから行け! 」
先ほどの余裕は消え、術を練る印を結んでいた。
そのまま固まって、静かに息を吐き、席へと戻った。
試験官は皆押し黙って表情一つ変えなかった。
たったこれだけのフレーズだった。
ここに文彦なりの解釈で、ストーリーの全体像を描き、その一場面を演じきった。
「ふむ。荒井さんは、この場面をかなり激しいやり取りで演じていますが、どんな思いを込められたのでしょうか」
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