【ショート小説】しゃべ部 ~豚骨のある声優~

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 一番年配の40代後半と思われる試験官が、唸りながら聞いた。  良い感触なのかも知れない、と思ったが油断はできない。 「はい。私はこのシナリオをいただいてから、自分なりにストーリーの全体像をイメージして書いてみました。シナリオには豚骨スープが入っています。その豚の骨を探したところ、バトルシーンを描き、2人は何度か衝突して、これからもぶつかり続ける間柄だと決めたのです」  我ながら意味不明な回答をしてしまったと思った。 「ほほう。言葉の意味は良くわからんが、とにかく凄い勢いだねぇ」  若い男性の方が、微笑みながら言う。 「ふふふ。まあ。若いっていいわね」  女性の方も乗ってきた。 「台詞を少し変えているようですが、そこに君のストーリーが見え隠れしました。なるほどねぇ…… 」 「まあ、シナリオライターを募集しているんじゃないからねぇ…… 」  ちょっと自信満々になっていた文彦の心が、ポッキリ折られた。 「しまった。勢いで勝手にアドリブを効かせたのは失敗だったか」  心で呟き、急に落ち着かない気分になった。  まるで自分が、ニッコウに食ってかかったジクウそのもののように思えて来た。 「では。試験はここまでです。お疲れ様でした」  後日、メールで試験結果が知らされた。  不合格だった。  試験の一部始終をパソコンで書き留め、康介に話した。 「そうかぁ。30人もいたんじゃぁ、仕方ないんじゃいか」  慰めを込めて言ってくれた。 「なんだか慰められるともっと落ち込むよ。落ちて元々とは言え、実際練りに練った作戦が裏目に出て叩き落とされたからなぁ」  声のトーンに悔しさが滲み出た。 「でもさ。自分が思った通りにやりきることが大事なんじゃないのか。周りに合わせて中途半端なことをすると、自分を見失うと思うぞ」  まるで人生を達観した中年のような落ち着きだった。 「はぁ。お前の言う通りだよ。康介。でも気分は下がりっぱなしだ」 「もしかすると、今の自分をキャラクターに込めたのかも知れないな。きっとその情熱が認められる日がくるさ」 「ああ。そうだといいな」  その日は練習する気分になれず、早めに床に入ってしまった。  卒業式の日、式典はつつがなく、決まり切った起立礼の連続で、流れ作業のように終わった。 「なぁ、康介。中学校では、こう、しんみりした感じがあったけど、高校はあっさりしたものだな」
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