【ショート小説】しゃべ部 ~豚骨のある声優~

7/8

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「皆それぞれの道に別れて行くし、限られた友達と話して三々五々…… まぁ、中学生より大人になったんじゃないのか」  教室で受け取った卒業証書を筒に詰めると、そそくさと帰った2人はまた練習を始めた。 「そう言えば、康介はどうするんだ」 「何を? 」 「俺は声優を目指して活動を始めたけど、やるのかい」 「まだ決めかねているんだよなぁ。俺は大学で文学の勉強をしてみて、本格的な小説を書いてみたいんだ。もう書き始めているんだけど、自分で演じたい、という気持ちよりも創作したい気持が強いかなぁ」  唸って考え込みながら話す。  あまり考えがまとまらない、と言う割にははっきりした目標があるように感じられた。 「俺もシナリオを書いてるけど、自分で演じることと創作は通じているんじゃないのか」 「それは同感なんだけどね。やっぱり創作して、世の中にないストーリーを発信してみたい。それを沢山の人に読んでもらうことに喜びを感じる気がするんだ」 「そうか…… 」  それっきり話題を変え、コンテンツをアップするとパソコンを閉じて考え込んだ。 「俺も、声優を目指すって宣言したものの、オーディションでやらかしてから、表現したい欲求が強くなった気がする…… 」  そんなある日、文彦のスマホに電話が掛かってきた。 「もしもし。私は先日オーディションの試験官をしていた声優事務所『ROUGH STYLE』の早川と申します」 「はい」  突然のことに面食らって、相手の真意がわからないまま空返事をした。 「実はね。先日の荒井君の演技を見て、最近の若者にない煌めきを感じてね」 「はあ」 「君は面白い! 」  力強く、そして明るい声に、緊張が少しほぐれた。 「どういうことでしょう」 「いやぁ。ざっくばらんに言うとね。自分でオーディションのシナリオに手を加える新人なんて、ここ何年も会ったことがないんだよねぇ」 「でも、シナリオライターさんには失礼なことをしてしまったと思ってますが…… 」  口ごもりながらも、少しずつ相手の熱意が分かってきた。 「いやいや。もちろん現場では空気を読んで欲しいところだけどさぁ。だけどね。君の現場度胸は失わないで欲しいんだなぁ」  随分文彦のことを買ってくれているようだった。 「社長にも紹介したいし、うちに声優登録しに来て欲しいと思って電話したのだよ」 「わかりました。ありがとうございます」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加