2 その猫の日常

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2 その猫の日常

 そんな昔の事を、今足元で眠っている純白の猫を見て思い出した。  私が足を動かすと猫は目覚めた。そして寝たままで背中をそらして体を伸ばした。 「あら、ミ―ちゃん起きたのね」  母が言った。 「ミーちゃん? この猫、ミーちゃんて言うの?」 「いや、決めたわけじゃないけどね。始めはネコちゃんとか、シロとか言ってたけど、ミーよって呼んだらニャアって返事をしたんで、ミーちゃんて呼んでるの」 「そうなんだ。おはよう。ミーちゃん」  私が言うと、猫はこちらを見てニャアと鳴いた。猫って返事をするんだ。  私は少し感動した。  私が着替えて仏間(ぶつま)の前を通りかかると、ミーちゃんが仏壇(ぶつだん)の前に敷かれた分厚い座布団(ざぶとん)に背筋をのばしてして、前足を(そろ)えてお座りしている。  その目は、仏壇の奥深くを見つめていた。合掌(がっしょう)こそしないものの、その姿は正に(いの)りを捧げている姿に見えた。  私は、しばらくその様子を見ていたが、ミーちゃんは、5分位その場にじっといしていた。 「ミーちゃんが、仏壇の前でお祈りをしていたよ」  私は何気(なにげ)なく母に言った。 「和ちゃんも見た? そうなの、不思議よね。あれ毎日やってるのよ。やっぱりお祈りしているのかしら」 「え? 毎日? 仏壇の中に何か興味のあるものでもあるのかな。動物って人間とは違った感覚をもってるじゃない。なにか、見えたり聞いたりしてるのかも」 「ひょっとして、父さんの姿を見てるのかも……」  母は、言った。  父は、私が中学生の時に病気で亡くなった。その後母は私を女手一つで社会人にまでしてくれた。  母の言葉を一笑(いっしょう)()す事はできたが、ミーちゃんのあの姿を見るとあながち否定もできなかった。  人間に近いと言うのはあのような所を見て言うのだろうか。  白い猫も次は人間に生まれ変わるのかもしれない。
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