5 その猫、人に一番近い猫

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5 その猫、人に一番近い猫

 いつかはこんな日が来ると思っていた。  ミーちゃんが死んだ。  ある朝の事、家の駐車場にミーちゃんが手足を伸ばして横たわっていた。  遠目に見ても不自然な格好なので、死んでいるとすぐにわかった。  口元から少し血が出ていた。  死因が何なのかは分からかった。マムシに噛まれたのか、変な毒物を口にしたか……。  私は、遺体をきれいなタオルで包み段ボールの箱に安置(あんち)した。  寂しい気持ちではあったが、不思議と悲しみは無かった。  母は私に言った。 「和ちゃんは仕事があるから早く学校に行きなさい。後の事は私がするから」 「うん。……じゃあ、いってきます」  その日の仕事を終え家に戻ると、母からミーちゃんについてその後の事を聞いた。 「動物の火葬(かそう)をしてくれるところがあってね。きちんとお(とむら)いをしたから。でも何で死んじゃったんだろうね」  母は、淡々(たんたん)と言った。母もあまり悲しそうではない。母は人の死も数多く見て来ている。人生経験からかな。  かく言う私もいまだに悲しいと言う気持ちはない。  だって、ミーちゃんは人に一番近い白い猫だったからだ。  朝、ミーちゃんの遺体を見た時、私にはそれが抜け殻のように見えた。  ミーちゃんの本質はちゃんと存在して、その辺りにいると感じた。  一抹(いちまつ)の寂しさはあるが、白い猫のミーちゃんは、次に生まれるときは人間だからね。  ミーちゃんが人間に生まれ変わりたいと思うのであれば、それはそれでいいけど。  でも、私の願いとしては、またあの純白のミーちゃんとして私の前に現れてほしい。 終わり
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