世のため人のためになるお弁当屋さん

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

世のため人のためになるお弁当屋さん

 男は弁当の蓋を開けた瞬間に激怒した。何故なら先程、買って来たばかりの大盛り二百円の格安ハンバーグ弁当の白米、梅干しの横に一本の長い髪の毛が乗っかっていたからだ。  男は弁当に蓋をすると、弁当を持って家を飛び出した。もちろん、この弁当を買った弁当屋に一目散に向かってだ。こじんまりとした路地裏にひっそりと(たたず)んでいたその店は何とも不思議な感じがした事を男はよく覚えていた。そして、破格の弁当の価格。全ての弁当が大盛りで、二百円とゆう価格破壊に男は『家の近くにこんな店があったとは!』と嬉しくなったのだった。  だが、しかしだ。せっかくの格安弁当にも髪の毛が入っていては台無しなのだ。そして男はこうゆった自分が有利な状況には、めっぽう強く、得意としていたのだった…。   「いらっしいせー」  男が店に入ると弁当を買った時と同じ肩まで金髪を伸ばし、ジャラジャラと派手なネックレスを付けた若い男の店員がいた。男は怒りに満ちた剣幕で、カウンターに弁当を叩き付けて大声で怒鳴った。 「オイ!見ろ!さっき買った弁当に髪の毛が入っているだろ⁈一体どう責任を取るつもりだ⁈」  すると、そのいかにもヤンチャそうな、その店員は怪訝(けげん)そうに言った。 「申し訳ございません。弁当代を弁償致しますので、どうかお許しください」  男は店員の態度と、その対応に更なる怒りが込み上げて来たのだった。 「オイ‼︎お前は俺を馬鹿にしているのか⁈ふざけるなよ、コラ‼︎」  男は絶好調だ。何故なら相手に非があり、自分が有利な状況だからだ。だが、店員の対応は変わらなかった。 「申し訳ございません。お金は返すので、どうかお許しください」  そして男はその言葉を口にした。 「お前じゃあ話にならない‼︎店長だ‼︎店長を出せ‼︎コラ‼︎」 「んー…、店長は留守…?なんですが…」 「あぁん⁈じゃあ、責任者だ‼︎責任者を出せ‼︎コラ‼︎」  店員は更に怪訝(けげん)な顔で言った。 「んー…、俺事ですが、やめといた方が良いと思いますよ…」 「ハァ…⁈何、ナメたこと言ってんだ⁈お前じゃあ話にならないから言ってんだぞ、コラ⁈いいから責任者を呼んでこいや‼︎」 「ハァ…。かしこまりました…」  店員は嫌そうな顔で、渋々バックヤードに消えて行った。そして、間もなく、いかにもひ弱で頼りない感じの男が現れたのだった。 「ど、どうなされましたか…?」 「どうもこうもあるか!ここで買った弁当の中に髪の毛が入っていたんだよ!どう責任を取るつもりなんだ⁈あぁ⁈」  怒りにまけせて怒鳴る男を目の前にして、その責任者の男は冷静だった。 「せ、責任は取らせて頂きます…。で、ですが、お客様は完全にアウトですね…!残念ながら…!」 「はぁ⁈テメェーは何を言ってるんだ⁈」 「じ、実はあの髪の毛は全てのお弁当に意図的に混入させています…。もちろん人工的に作られた食べても何の害もない物です…」 「⁈⁈⁈」 「じ、実はこの店は更生施設(こうせいしせつ)なんですよ…」 「更生施設…⁈一体、何のだ…⁈」 「お、お客様のような人間のですよ…。じ、実は、私も七年前にこの店で、今のお客様のように声を荒げ、責任者を呼んで、マウントを取ってイキがったのですよ、いつもの様に…。  ですが、それこそがこの店の狙いなのです…。犯罪まではいかないにしても、社会に害を(もたら)(やから)を強制的に拘束(こうそく)し、強制的に働かせて、更生させるのです…」  男は急いで自動ドアの前に立ったが、扉は開かない。そして自動ドアを蹴ったり、体当たりしたが、身体が痛むだけで扉は開きも壊れもしなかった。 「ああ、無理ですよ…。七年前の私も散々試しましたから…。人間程度の力ではビクともしませんよ…。  七年経って私もすっかり丸くなったつもりなのですが、まだ店長から許しが出ません…。責任者になって早、二年…。この店から出るには、まだまだ掛かりそうです…。  あっ!貴方(あなた)も今日からここの囚人、兼住人ですよ!よろしくお願いします!因みに私は教育係も兼任していますので、これからビシバシいかせてもらいますよ…!ああ…!楽しみですね…!」  男は嬉しそうなその責任者が、未だにこの弁当屋から抜け出せない理由が何となく理解出来たのであった…。終
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!