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4・君が悪いんだ
****♡Side・副社長(皇)
「塩田は」
「塩が良い」
「じゃあ、レモンを買って帰ろうか」
「ん」
隣に視線を移せば嬉しそうな顔をする恋人がいる。
そんなに塩焼き鳥が好きなのかと誤解した皇は、焼き鳥に対し軽い嫉妬を覚えた。
──俺、心狭すぎる。
だが、皇の心が狭いのは今に始まったことではない。普段は寛容な皇は、こと塩田に関することになると針の穴ほどの心の狭さに変ってしまうのである。
これではいけないと嫉妬心を抑えようとする皇。
ぐぬぬと手を顔の前で握りしめていると、
「何してんだ?」
と塩田。
「あ、いや。ここ人気だからさ、無事に買えてよかったなと」
慌てて誤魔化したものの、”へえ”と苦笑いしながらこちらを見ている塩田に冷や汗がしたたり落ちる。
「あ。お兄さんイケメンだからオマケしてあげる」
商品を待っていた皇は突然、レジの女性から声をかけられた。
スッといつもの営業スマイルを浮かべれば、何故か奥から黄色い声が上がる。自分の造形が良いことくらい分かっているつもりではあるが、少し気まずい。
怖くて隣が見られない皇に差し出されたのは軟骨揚げのパック。
「これ、うちの新商品なのよ。良かったら隣の彼と食べてね」
レジの女性が人好きのする笑顔を浮かべてパックを袋の中に入れると皇の方へ差し出す。皇は礼を述べてそれを受け取ったのだった。
レジから離れ駐車場へ戻る道の途中で塩田の方をチラリと見やれば、案の定彼は拗ねた表情を浮かべていた。
──うう、可愛い!
悶絶してしまった皇だが、ここは彼のご機嫌を取る方が先決。
「なんで拗ねてるんだよ。軟骨揚げ嫌いか?」
「好き」
ムッとしながらも素直に答える彼が可愛い。
「皇は、何処行ってもモテる。なんかムカつく」
車の前まで行くと皇は立ち止まり、不機嫌な彼の腰に両腕を回し引き寄せた。
「ヤキモチ?」
「そうだけど?」
”何か文句あんのか?”というように上目遣いでこちらを見つめる瞳。カッコ悪いとか、外だからとか。そんなもの関係なく感情を素直に出す彼だから可愛いと思うのだ。とは言え、塩田は公共の場で騒いだりはしない。元々騒がしいタイプでもないが。
「可愛いな、ホント」
そのまま引き寄せて口づければ、困った顔をされる。
日が落ちてはいるがここは外。
「なあ、外でこういうことするのは……」
少し機嫌が直った塩田が眉を寄せた。
「そうだな。さっきのところでレモンも買えたし、帰ろうか」
「ん」
ホントはもっと触れていたい。そう思うものの、先に家に帰るべきだと思った。せっかくの温かい料理も台無しになってしまう。
そう、思っていたのに。
「んんっ……」
家に着いたらまずは風呂。それが塩田の習慣だ。
愛しいという感情の余韻を残して一緒に風呂に入れば、その気持ちが加速するのは言うまでもない。
つき合って一年が経過し、最近やっと肉体的な結びつきを持ったばかり。本当は気が触れるほど愛し合いたいのだ。それを耐えるのは彼の身体への負担を思うからであって、決してしたくないわけでも枯れているわけでもない。
”ホントは毎日でもしたいんだ”と本音を漏らせば、塩田はきょとんとした顔をしたのち、
『は? すれば良くね?』
と不思議そうに皇を見つめた。
そんなことを言われてしまったら、やめられないではないか。
否、暴走しかしない。そうだろう?
そう自問自答した皇は飯どころではなかった。行く先はベッド一択。
『ここじゃだめだ。風邪ひくから』
塩田にそう言われることを見越して、風呂場を後にしたのである。
彼の身体から香るボディソープの香に酔いながら、その肌を堪能した。塩田は貧相な身体と言って自信なさげにしているが、滑らかな肌とその腰つきに皇が夢中なことに気づいて欲しいと思う。確かに華奢ではあるが、抱き心地は最高だと思っている。
「すめ……らぎ」
名前を呼ばれて皇はその唇を自身の唇で塞いだのだった。
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