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5・対等でいるために
****♡Side・塩田
激しく身体を揺さぶられながら塩田は快感に酔った。こんなに激しく求められたのは初めてのことで、正直少々混乱している。
確かに我慢する必要はないとは言ったが。
「いい?」
それは良いのかという意味合いだろう。塩田はコクコクと頷くとぎゅっと後ろを締め付けた。
「そんなに締め付けるなよ」
穏やかな笑み。塩田の事となるとすぐに熱くなってしまう彼からは想像も出来ないほどに。
恋愛とは当然のことながら、好いた相手とするものだろう。二人の恋愛の始まりは決してロマンチックでも甘い物でもなかったように思う。
皇の穏やかな表情を見たのは何時ぶりだろうか。
──そうだ、俺が別れたいなんて言ったから。
あれから皇は変わったと思う。それまでは穏やかだったのに、感情的になった。そのことを指摘すれば『俺はそんなに大人じゃないんだ』と皇は言う。
『俺は、二度とあんな想いはしたくない。大人でいて塩田が離れて行ってしまうくらいなら、スマートじゃなくても気持ちは伝えたい』
塩田が別れようなどと言ってしまったから。
彼はそれがトラウマになって必死なのだと気づく。
どんな皇でも好きでいる自信はあるが、いわば常に気が張りつめた状態でいるということなのだ。このままではいつか疲れ切ってしまうだろう。
それは何としてでも回避したい。
快感に身を任せながら、皇とつき合ったばかりの頃を思い出す。
あの頃の自分たちは何もかもが手探りだった。
初めて唇を重ねた日。
意外と奥手なんだなと思った。塩田でも恋人同士になればそういうことをすることくらいは知っている。おつき合いの返事だって、つき合ったらどのようなことをするのか調べてから返答したのだ。
だが、皇から好きと言われてからつき合おうと言われるまでには、だいぶ期間があったように思う。
そしてその間は、塩田に意識させるには十分すぎる時間だった。
初めは冗談かと思っていた皇の言葉が本気なのだと知る頃、自分も彼に特別な感情を抱いていることに気づく。
彼はなんでもそつなくこなす癖に、いつだって塩田に対しては真面目で一所懸命だった。そんな相手を好ましく思わない人なんでいるのだろうか?
「皇……好き」
「愛してるよ」
わき腹を撫でる手。そのまま抱きしめられて、塩田はその背中に手を回した。もうすれ違わない様に、ちゃんと伝えなければならないと思う。でも自分はいつでもうまく言葉にすることが出来ない。
じっと見つめれば、ちゅっと口づけられた。大丈夫だよと言うように頬を撫でる優しい手。
「塩田は上手く気持ちを表現できないこと、気にしているみたいだけど」
”そのままでいいよ”と彼が微笑む。
「言葉にしなくても、ちゃんと伝わっているから」
甘やかされているなと思った。
「なんだ、不満そうな顔をして」
決して甘やかされているのが嫌というわけではないが、恋愛は対等だと思う。それに甘えると怠慢は別物だとも思う。
「塩田の言いたいこともわかる。でもさ、互いに苦手なことを許し合えるも対等なんじゃないのかな」
皇は優しすぎると思った。
頬にあてられた手を握り込むと、彼が”分かってくれた?”と問う。
「それでも納得できないなら、ゆっくり変わっていけばいいんだよ」
「わかった」
ふふっと笑う彼を見つめる。
「塩田が俺のために努力してくれるのは嬉しい。でも焦らなくていい。俺は、塩田だから好きなのであって、努力してくれるから好きというわけじゃないから」
相手が同僚の電車や板井ならもっと気軽に話すことが出来るのに、皇が相手だと上手く話せなくなる。それなのに皇は好きでいてくれる。
こんな自分のどこが好きなのだろう?
気にはなるものの、問うことは憚られた。
自分では自覚がないが、緊張してるのかもしれない。
もっと慣れたらいろいろ聞くことが出来るだろうか?
自問自答していた塩田だったが、再び口づけられ行為に集中することにしたのだった。
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