1人が本棚に入れています
本棚に追加
ひかると土の下一番地
目覚めているのか夢の中にいるのか。目の前に広がるあらゆる構造物が水彩画のような淡い街並みを見て、ひかるはすぐには判別できなかった。
「え?え?ここどこ?あ、ひかるちゃん」
風景もそうだし、地面に引きずり込まれたのに服に土が一切ついていないことを真珠ちゃんは不思議がっていた。
「真珠ちゃん。これ何だろう?私たち二人同時に夢を見てるのかな?」
「そんなことある?でもこれは………」
彼方まで見下ろせる、一つとして同じ形のない建物の街並みと、ほんのりと全体が暖色灯のように光る空という不思議な世界に立ち尽くしていると、背後から声がした。
「とっくに気付いてたんだこっちはぁ~!」
「ひゃあっ!」
ひかるは夜中に目が覚めてキッチンに飲み物を取りに行ったらGと遭遇した時と同じ声量の悲鳴を上げ、真珠ちゃんは口を両手で押さえて振り向いた。
「うさぎ!?」
真珠ちゃんが驚き、ひかるが右目で見えるのと同じものが見えている?と、ほんの少し喜びを覚えた。
ひかると真珠ちゃんの後ろに立っていたのは、頭だけが完全に「ウサギ」の藤谷さんだった。
ポップでキャラクターのようなウサギならまだ良かったのだが、絶妙にリアルなウサギ。
「つけてきやがるから、気付かないふりして誘い込んでやったぜ!イエーイざまあみろぃ」
見た目はともかく、幼さが残る声で喋るので、あまり怖くない。
「あなた、藤谷さんよね?何でそんなの被ってるの?ここどこ?」
さっきまで怖がっていた真珠ちゃんが藤谷さんの声で落ち着きを取り戻し、きいた。
「『被ってる』とは失敬な!これがあたいの顔だよ!最初から見えてんだろモンゲーどもが!」
「もんげー……?」
ひかるは真珠ちゃんと顔を見合わせた。
「藤谷さん、それなあに?」
「この期に及んでとぼけるかボケっ!バレバレなんだよっ!」
ひかるは藤谷さんが何か勘違いをしているが、興奮していてとてもこちらの言い分をきいてくれそうにない。
「あのね、ひかる、藤谷さんの『本当の顔』が前から見えてたの。害がないから無視してたんだけど、真珠ちゃんに相談したら、つけてみようって話になって」
「ああ、ひかるちゃんこの姿が見えてたんだ」
真珠ちゃんが納得した顔をし、ひかるは頷いた。
藤谷さんは「(なんか違うっぽいかも…)」と小声で呟いているが、なかなか警戒を解いてくれない。
「ここがどこか知ろうとも思わないし、これ以上追いかけたりしない。話したところで誰も信じないでしょ?藤谷さん」
ひかるが畳み掛けると、藤谷さんは少したじろぎ、言い訳するように返した。
「見抜かれた時点で、ただ帰すわけにはいかねーんだよ。それに今の『道』はもう使えない。あれは一方通行だ」
「さっきひかるたちを地面に引きずり込んだあれのこと?」
「あぁ、また余計な情報与えちまった……。とにかく来い!判事に決めてもらう」
真珠ちゃんが「判事」という言葉にぴくりと反応した。
「私たちを裁判にでもかけるの?」
「地上のダラダラと長ったらしい裁判とは違う。ここの揉め事は判事がその場で解決する」
真珠ちゃんがひかるに耳打ちした。
「(隙をみて逃げちゃお)」
「(逃げるって……どこに?)」
藤谷さんが振り向いた。
「全部聞こえてるぞ!逃げても無駄だ。人の力ではここから出られない」
「どういうこと……?」
ひかるの質問に、藤谷さんは薄く笑った。
「すぐにわかる」
最初のコメントを投稿しよう!