サンペジのベル

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 その日はサンタ村のお祭りだった。  プレゼント包み競走や、トナカイのレースなんかもあって、けっこう盛り上がる。  けれど、サンペジは祭りには参加せず、また山の麓にあるクリスマスツリーの根元で一人過ごしていた。  スリページは競走には向かないし、サンペジが参加してもベルがリンリン鳴って笑われるだけだ。  そんなサンペジの様子を見に来たのはサンリーンだった。 「サンペジ、お祭りには参加しないの? スリープは?」  手には傘を持ち、トナカイのスーリーンを連れている。 「スリープは山で遊んでる。サンリーンこそ戻らなくていいの?」 「私の出番は終わったの。ほら」  サンリーンはプレゼント運び競走の銅メダルを首にかけていた。 「僕とは大違いだね」  そう言ったサンペジの首で、またベルがリンと鳴る。 「あら、私、サンペジのベルの音好きよ。どんな時でもその音を聞くと心が落ち着くの」 「ははっ、平和のベルだもんね」  サンペジは力なく笑った。 「あれ? サンペジ、ベルの色が……」  サンリーンがベルの異変に気づく。  本当だ! 紫色になっている!  サンペジが空を見上げると、太陽も紫色になっていた。  嫌な予感がする。 「雨でも降るのかしら」  サンリーンが傘を開き、目を見開いた。 「サンペジ、どうしよう! 地震が起こるって!」  傘の予報は外れない。大変だ!  山の谷間に位置するサンタ村は、大地震が来れば雪崩に襲われる危険だってある。 「みんなに知らせなきゃ! サンリーン、先に戻って知らせて! 僕もスリープを連れてすぐ戻る」  サンリーンは頷いて相棒のスーリーンにまたがると、祭りの方へ戻っていった。 「スリープ! スリープ!」  サンペジがベルを鳴らして呼ぶと、スリページがすごい勢いで走ってきた。  山も変な音で吼えている。 「急ごう!」  サンペジもスリページにまたがった。 「みんな! きいて! 地震、地震が起こるの!」  先に戻ったサンリーンが村人達の中で叫ぶ。  けれど、みんな祭りに夢中で、サンリーンの声が届かない。  その時、山の方からサンペジのベルの音が聞こえてきた。  ベルの音で、一瞬、祭りの賑やかさが静まる。 「みんな! 地震が起こるの!」  やっとサンリーンの声が通った。  そして、今度はパニックが起こった。 「地震だって!」 「まずいぞ!」 「どうする?」  みんな慌てて祭りの中は大騒ぎになる。  いつの間にか、サンペジのベルの音はあの童歌のメロディを奏でていた。  誰からともなく、村人達はあの童歌を口ずさみ始める。  紫色の太陽の下♪  平和のベルを鳴らせ♪  傘が教えてくれる♪  金平糖は道しるべ♪  ベルの奏でるメロディーで、村人達のパニックは次第におさまっていく。  途端、サンスケの金平糖がバラバラと空に舞い上がった。  それらは一列に並ぶと、すうっと道に降りてきてキラキラと光った。  金平糖の道は村の南側にある丘へと続いている。 「皆、道しるべに従うのじゃ!」  長老の声で村人たちは南側の丘へと向かい始める。  途中、みんなの足元が、立っていられないほどにグラグラと揺れた。皆、しゃがんで、揺れがおさまるのを待つ。 「急げ! もう少しだ!」    皆が南の丘にたどり着いた頃、サンタ村を雪崩が飲み込んだ。
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