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スクールが終わった後、また二人になった時に路紗に田沼が危険な大人だということを教えようとして訴えた。路紗がまた「それは、僕が下手だから教えてくれてただけで」と、危機感のないことを言うので、思わず溜息が出る。
そして俺達が、他の子供よりも可愛い見た目をしていて、いわゆる「美少年」だということを切々と語った。
モデルにスカウトされたこともあったし、外で遊んでいたり親が居ないところで可笑しな大人が俺達に近付いてくることが何度かあった。路紗は全く気付いていなかったが、道を訪ねてきた男に車に乗って案内してもらえないかと車に連れ込まれそうになったこともある。もし俺が一緒じゃなかったらどうなっていたかと思うとぞっとする話だ。
「あいつが美少年好きのエッチな大人だったらどうすんの?」
そう、田沼はいやらしく触っているわけじゃなかった。勿論身体を触られることは多かったが、それが性的かと訊かれたら自信がない。でももし、相手が悪い大人だったら、そう思わずにはいられない。
「田沼先生はそんな人じゃない! 一生懸命教えてくれてるのにひどいよ凛々……!」
涙を浮かべて怒る路紗を見た時、俺はもしかしたら穿った見方をしていたのは俺の方かもしれないと思った。路紗も、俺以外の生徒も保護者も、何も間違っていないのかもしれない。田沼は本当に熱心に指導してくれているコーチなのかもしれない。俺の成績を伸ばそうと一生懸命なだけなのかもしれない。きっと認知が歪んでいたのは俺の方なのだ。路紗の泣き顔は、そんな風に思わせるくらい美しかった。
「ごめん」
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