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俺が思いついたのは、他人から見たら見分けがつかないほど瓜二つの俺達の容姿を利用すること。スクールの先生達はキャップの色でしか俺達を判別できない。田沼もキャップを外している路紗に、俺と間違えて声を掛けているのを見たことがあるから例外じゃない。間違いなく、白のキャップを被った路紗を俺だと思うだろう。
「で、でも僕、泳ぎ下手だからすぐバレちゃうよ……!」
路紗の言う通り、泳ぎを見ればバレてしまう。けれど、これは路紗が田沼と二人になれる時間を作るための茶番であって、最後まで嘘を吐き通せるかどうかは関係ない。
「いいじゃん別に。今日で田沼最後なんだし、他の先生にチクったりしないでしょ。もしバレてもそれで怒られるのどうせ僕だし?」
俺にしてみれば居残り練習をすっぽかすこともできるし、路紗が田沼にお別れの言葉を言う機会にもなって一石二鳥だ。我ながら妙案を思い付いた、とそう思った。
「ありがとう、凛々。僕、頑張るね」
そう言って頬を紅潮させてはにかむように笑った。俺はまさかこの提案のせいで、大好きな美しい路紗を、その笑顔を最後に失うことになるとは思いもしなかった。
俺は他の生徒やコーチに怪しまれないように、路紗の服を着て帰った。先に一人で帰ってきた俺を、母は服のせいで路紗と間違えた。一応「凛々は居残り練習させられてるよ」と路紗の振りをして言ってみたら、バレないで済んでしまったので、そのままお風呂に入って部屋着に着替えて、こっそり自分の部屋に戻った。
この後路紗が帰ってきて服を着替えてしまえば、母にはこの計画を知られることはない。
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