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もやもやした感覚が、ずっと胸の真ん中にある。路紗に何があったのか聞かなければいけないと思っているのに、できなかった。それどころか、路紗と話すことから逃げて、口を利かなくなった。
俺は、真実を知るのが怖かった。真実を直視する勇気がなかった。
俺があの日、路紗に「入れ替わろう」なんて提案をしなければ、路紗が傷付くことはなかった。俺の大好きな美しいひとを、失うことはなかった。きっと今も俺の隣でこの世の醜さなんて知らない純粋無垢の美しい微笑みを浮かべていたのだ。
俺のせいで路紗が──俺の身代わりになったなんて信じたくなかった。
守りたかった。誰よりも愛していたから。路紗の善性を美しく尊く、儚いものだと思っていたから。
それを、俺は殺した。守りたかった、愛おしい俺の半身を。俺の魂の半分を。自らの手で、殺したのだ。
[サンプル・了]
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