おまえを好きなのはカラダだけ【試し読み】

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「はは」  必死な俺を見下ろして、男が笑う。ベッドに横たわる前まで強気だった俺を嘲笑っているんだろう。 「可愛いな、お前」  そう思った俺に、その言葉はあまりに予想外で、不意打ちで。腹の下の、奥がきゅんと収縮するような初めての感覚がそこにあった。 「ッ……急に締めんなって……!」 「してな──あッあぁっあんっ」 「っ……もう出すぞ……!」  男の律動が早くなって、何度も最奥の壁に突き当てるように腰を揺すった。俺は何度目か分からない絶頂に身を仰け反らせる。  がくがくと激しく痙攣する俺の腰を掴んで、男は深くまで穿ったまま、短く息を切った。びくっと俺の中で男の茎が脈打つ。  息を整えるように男が何度も呼吸をするのを、恍惚として見上げた。オールバックにしていた前髪が乱れて、額に張り付いている。いつの間にこんなに汗を掻いていたのだろう。必死過ぎて全く気付かなかった。 「っん……あ……」  身体が離れて、男の一部が俺の中から引き抜かれた。それなのに、俺の身体はまだ小刻みに震えて、甘イキしているような快感に身を浸している。  一生味わうことはないのだと諦めていた。中イキなんて、絶対できない身体なんだと思っていた。――思っていた、のに。  ゴムをベッド脇のゴミ箱に放って、男は俺の隣に肘をついて身体を横たえた。 「どうだ? 悪かねぇだろ、天国」  俺の顔を覗き込むと、そう言ってにやっと笑った。数時間前に知り合ったばかりだが、それでもその他人を見下すような、小馬鹿にするようなにやついた顔が始めから気に入らなかった。  気に入らないし、ムカつくし、イラつくし、正直全然タイプじゃない! ……が、俺はこの一度のセックスで男に完全に身体を作り替えられてしまった。
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