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結局、七宮は一言もしゃべらなかった。
「ねぇ、七宮、飯塚のこと、嫌いなん?」
「えっ? な、なんで、そんなこと聞くんですか?」
クラスルームに向かって階段を上る途中、七宮が足を止める。
(動揺してる? 当たっちゃったんだわ。きっと)
七宮は、目を細めて、踊り場の窓から、外を眺めた。
七宮はこの春、生徒会長に立候補したけど、選挙で飯塚に負けた。
亜衣は、七宮に投票したし、友達にも七宮への投票を勧めたんだけど、焼け石に雀の涙。誰から見ても完敗……典型的な、ワンサイドゲームだった。
きっと、七宮は落ち込んだのだろうけど、周りは冷ややかな目で、七宮を見ていた。
なぜ、京四条のプリンスに、真正面から勝負を挑んだのだろうと、誰もが無謀な挑戦の意味を理解できないでいた。
その答えは、亜衣も未だわかっていない。
「香川さん……」
七宮は、細めた目を窓の外に向けたまま、口だけ開けた。
「え? な、何? 聞かない方がよかった?」
「いや、そうではなくてですね……」
眼鏡の向こうで、眉をひそめて、睨むようにこちらに振り向く。
飯塚のこと、さきの選挙の話題はタブーなんだよ、と七宮の切れ長の目が訴えていた。
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