1.平凡ではない日常のはじまり

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「香川さん、今朝、虹が出ているの見ました?」  七宮は、話題を変えた。 「えっ? あ、ああ……椋平虹(むくひらにじ)のこと?」 「なーんだ、あれが椋平虹だって、知っていたんですね。さすが、副クラス委員長ですね。じゃあ、あの虹の意味も知ってますよね?」 「え……、あ、ああ。まあ、そうね……」  九十年以上も前、椋平という人が、短冊状の虹を観察して、地震との関係性を見出し、大地震が起こる前にそれを予知したという伝説。  椋平が関東大震災や北伊豆地震などを予言して、見事、的中させたというので、短冊状に出るその虹のことを、いつしか椋平虹と呼ぶようになったという。 「不吉ですよね、何が起こるんでしょうね。フフフ」  七宮は、顔をくしゃりとさせて、笑った。 「ちょい、ちょい。七宮、その言い方、不幸を願ってるみたいで不謹慎やない? まるで、大地震がくることを楽しみにしてるみたいやん」 「大地震? 地震が起こることなんて、願ってないですよ、別に」 「は? 今、ワクワクしてたやん? 椋平虹見たからって」  何人もの生徒が、亜衣たちの横をすり抜けて、階段を上っていった。
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