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亜衣は、玄関を飛び出し、行ってくるね、と手を振った。
「そんな慌ててたら、あぶないで。ケガしんとってや」
そんな母の声を背中で聴きつつ、トンットトと、つま先を地面に叩きつける。靴の履き心地は整った。
「イヤや、もう。雨やんか……」
割れた前髪、おでこに雨粒が当たる。ただ、バス停までは近い。
亜衣は、背中のリュックに入れた折り畳み傘を出すこと無く、下町情緒の残る住宅街の路地を急いだ。
空は雲に薄く覆われているけど、辛うじて日がさしていて、天気雨のよう。
「あ、あれ? に、虹?」
雲の切れ間に、筆をさっと走らせたような、一筋の虹が浮かんでいた。今にも消えそうではあるが、確かにそれは、七色をしている。
(こ、これって、椋平虹?)
椋平虹……。
大地震の起こる前兆とも言われている、不吉な虹……。フォローしているインフルエンサーのSNSで、その虹の存在は知っていたけど、亜衣が実際に見たのは初めてだった。
亜衣は、憑りつかれたように、虹から目が離せなくなった。
「きゃっ!」
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