1.平凡ではない日常のはじまり

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 虹に気をとられて、ちゃんと前を見ていなかった。  角を曲がって、すぐ。思いがけず、誰かぶつかりそうになって、亜衣は、足をグネりそうになりながらも、ギリギリのところでなんとか止まれた。 「す、す、すみませんっ!」  ほぼ脊髄反射で、そんな言葉が出て、バサッと頭を下げる。 (……あれ? 相手の反応が無い)  頭を下げたまま、薄目で見えてきた道は暗かった。一面、大きな影に包まれている。 (あ、あれ?)  不思議に思いながら、亜衣は、そっと顔を上げた。  逆光でよく見えないけど、道の真ん中なのに、真っ黒な壁がそそり立っている。  間違って、袋小路に入ったのかともと、一瞬考えたけど、そうじゃない。 「な、な……な、なに!? 何、何、なに!?」  真っ黒で四角い影は、よく見ると、見覚えのある形をしていた。 (か、壁じゃない……。スマホ?)  ピカピカと黒光りする長方形のガラス面の横から、手が生え、足もついている。亜衣よりも一回り大きいスマートフォンの形をしたそいつも驚いているのか、両手がブルブルと震えていた。
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