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虹に気をとられて、ちゃんと前を見ていなかった。
角を曲がって、すぐ。思いがけず、誰かぶつかりそうになって、亜衣は、足をグネりそうになりながらも、ギリギリのところでなんとか止まれた。
「す、す、すみませんっ!」
ほぼ脊髄反射で、そんな言葉が出て、バサッと頭を下げる。
(……あれ? 相手の反応が無い)
頭を下げたまま、薄目で見えてきた道は暗かった。一面、大きな影に包まれている。
(あ、あれ?)
不思議に思いながら、亜衣は、そっと顔を上げた。
逆光でよく見えないけど、道の真ん中なのに、真っ黒な壁がそそり立っている。
間違って、袋小路に入ったのかともと、一瞬考えたけど、そうじゃない。
「な、な……な、なに!? 何、何、なに!?」
真っ黒で四角い影は、よく見ると、見覚えのある形をしていた。
(か、壁じゃない……。スマホ?)
ピカピカと黒光りする長方形のガラス面の横から、手が生え、足もついている。亜衣よりも一回り大きいスマートフォンの形をしたそいつも驚いているのか、両手がブルブルと震えていた。
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