1.平凡ではない日常のはじまり

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(き、着ぐるみ!? 通信キャリアのイベント? こんな朝から?)  スマートフォンの形をした上半身が、僅かに傾き、両手を前に挙げ、爪を立てる。流木のようにこげ茶色をして、筋張っている手首の先に、どす黒くて鋭い爪が伸びた爬虫類のような手。 (イヤイヤ、近くに携帯ショップなんてないし)  亜衣は、激しく高鳴る胸に手を当てて、気持ちを落ち着かせる。 「ガ……ガルルルルッル……」  ケダモノのようなだみ声が、着ぐるみの中からした。 「げっ!」  亜衣は、少し腰を落として、身構える。 (や、やばい……コ、コイツ、本物の変質者かもしれない) 「ガオゥッ!」 「きゃっ」  腕を掴まれかけた亜衣は、咄嗟にそれを振り払い、スマートフォンのわきの下をすり抜ける。 「ガッガアァルルッ!」  亜衣は、捕まるまいと、地面を蹴り上げて、超絶にダッシュ――と見せかけて、真上に飛んだ。 「オゥッ!?」
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