1.平凡ではない日常のはじまり

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 派手なツートンカラーの市営バスが、後ろから、ぬっと前に出てきた。  息をつく間もないまま、亜衣は、バスと並んで、競争する。 (あのバスに乗りたい……) 「ぬおぉぉぉ」  ショートボブのサラサラした髪のことなんて、気にしてられない。 「ぬおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぁぁぁあああ!」  亜衣は、膝丈のスカートをはためかせて、必死で駆けた。  そして、なんとかバスを追い抜いて、バス停に到着する。 「香川さん、激しいランでしたね。もうちょっとで、パンツが見えそうでしたよ。きわどい走法ですね。年頃の乙女なんだから、やめたほうがいいですよ」  バス停の屋根の下、長い列の最後尾にいたブレザーが、ずっとこちらを見ていたらしい。 「はぁ、はぁ、はぁ……し、七宮(しちみや)?」  七宮樹生(しちみやみきお)は、黒縁眼鏡の眉間を持ち上げて、ニヤリと笑った。セクハラコメントを発しているのに、日常の超・堅物な印象が、その発言を説法のような音色に変える。  きっと、他のマジメ君に言われたなら嫌悪するのだけど、この男子は、それを超越した無機質な講釈をしてくるので、いつも納得させられてしまうのだった。
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