5人が本棚に入れています
本棚に追加
派手なツートンカラーの市営バスが、後ろから、ぬっと前に出てきた。
息をつく間もないまま、亜衣は、バスと並んで、競争する。
(あのバスに乗りたい……)
「ぬおぉぉぉ」
ショートボブのサラサラした髪のことなんて、気にしてられない。
「ぬおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぁぁぁあああ!」
亜衣は、膝丈のスカートをはためかせて、必死で駆けた。
そして、なんとかバスを追い抜いて、バス停に到着する。
「香川さん、激しいランでしたね。もうちょっとで、パンツが見えそうでしたよ。きわどい走法ですね。年頃の乙女なんだから、やめたほうがいいですよ」
バス停の屋根の下、長い列の最後尾にいたブレザーが、ずっとこちらを見ていたらしい。
「はぁ、はぁ、はぁ……し、七宮?」
七宮樹生は、黒縁眼鏡の眉間を持ち上げて、ニヤリと笑った。セクハラコメントを発しているのに、日常の超・堅物な印象が、その発言を説法のような音色に変える。
きっと、他のマジメ君に言われたなら嫌悪するのだけど、この男子は、それを超越した無機質な講釈をしてくるので、いつも納得させられてしまうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!