地下鉄で電車を待っていたら、 冥途の土産を聞かされた話

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俺の大声は、いつの間にか到着していた電車の発車音に、かき消されていた。 振り向いて話をしていたので、電車の到着に気が付かなかった。 乗らなかったのは俺たちだけで、ホームは全くの無人だ。BGMも流れていない。 次の電車が到着するまで、15分ほどある。 「聞いてくれる?」 おっとりとした口調。たれ目がちな目つき。年齢はわからないけれど、そこまで年上には見えない。 やっぱり、これは逆ナンなのでは? 「ええと、もう一回聞いてもいいですか? 電車がうるさくて聞こえなくて。」 聞き間違いだった可能性に、賭ける。 「冥途の土産に聞いてほしいの。」 聞き間違いではなかった。残念ながら、逆ナンではない。 ていうか。え、何? 冥途の土産? 俺はフル回転させて脳内辞書を引く。 『メイドノミヤゲ』とは。 子どもの頃、漫画でよく目にして、アニメでよく耳にした単語だ。 ラスボスとの戦い。ヒーローに向かってボスが言う決め台詞のような、アレだ。 『冥土の土産に、良いことを教えてやろう!』と。 「……何かしらのラスボスで、いらっしゃいますか?」 「何の話?」 キョトン、と、お姉さんは「お前何言ってんだ?」のテンションで俺に聞き返した。 俺がバグるな。 そう。聞き方が悪かったかもしれない。 でも! そもそも! あなたは! 何を言っているんだ! つい怒鳴り返しそうになって、俺は言葉を飲み込む。 「ごめんなさい。突然の話で、驚かせちゃったかしら。」 彼女は、そう言って頭を下げた。 「順を追って説明するわね。」 その言い回しは、姿形にふさわしい、オフィスレディといった風なのに。 「今からわたし、死ぬから。貴方に、冥土の土産を貰って欲しいの。」 「あなたは何を言っているんだ!」 言わされた。我慢できなかった。 い、今から死ぬので!? 「死にます。今から。」 家に帰ります。くらいの軽さで、彼女は言った。
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