花音と直人

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花音と直人

年明けの授業のあとは卒業試験。早めに済めば、大学へ行くことはほぼない。 花音にはまだいくつか試験があるけど、科目数の少ない直人はさっさと終えて、地元 埼玉への引越し準備を始めた。 大手銀行に決まった直人は入行前の課題が多いのを理由に、しばらく花音と会っていない。卒業したらもっと会えなくなるのに、家賃がもったいないから大学近くのアパートを引き払うという。 花音は自宅の世田谷から通学、時間があれば自宅近くのケーキ屋さんでバイト。 ダンス部の直人とは去年学祭で知り合い、その頃は楽しくデートしてた。一人暮らしの直人の部屋で、付き合いたてには直人に抱かれていた花音だけど、恥ずかしくて積極的になれないまま…就活開始、すれ違いが増えた。 前の彼とはもっと一緒にいたのにな、と思いながら、付き合う前は熱心だった直人はベタベタでもなく、縛られることもないから楽、と思うようにしてる。 じゃないと…友達から、あまりにも会わなさすぎ、誘われないなら誘いなよ、彼氏淡白?花音もしかして不感症なんじゃない?などと言われてしまうから。 年明けて何回会ったっけ、そのうち何回…数えようとして、苦笑した花音。 会ったのは3回で、食事とお喋りだけ。これって付き合ってることになる?と思ってたら、ダンス部の、卒業生追い出しコンパに呼ばれた。 ひと月会ってない、連絡も数日おきの直人から連絡が来たと思ったら、知り合いもいないサークルに呼ばれるなんて。 戸惑いつつ来てみたら、こんな可愛い彼女いたんスか、直人先輩ばっかずるいっす、と、久しぶりの彼女扱いにくすぐったい花音。 だけど… 身体を鍛えるのが趣味でもある直人、花音の知らないところでモテてたというのが、部員たちの様子でわかった。直人に気持ちを寄せてる子が数人いるのは見て取れる。 直人、この様子を見せたくて呼んだの…?来ない方がよかったかなと思いながら、慣れないお酒で頭が痛くなってきた花音は、カウンターの端に座って休んでた。 すると 「遅くなってすみません、あれ?見かけねー顔、どーしたの」 見知らぬ男が花音に声掛けてくる。 「おー遼ちゃん久しぶり!この子ね、俺の彼女、酔っちゃって休んでんの、よろしくね」 「…了解っす」 直人がゴキゲン口調なのは、酔い出した証拠。 「直人先輩の彼女なの?」 「…そう」 「飲めねーのに飲んだってやつか、だいじょぶ?」 「…ちょっと、辛い」 花音は、ふー、とため息をついた。
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