ある老婆の証言

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さて、どうしたものか。確かに80の婆さんの証言も、子供の証言も、信用しづらいところはある。老人はボ認知症が入っているかもしれないし、子供はよく作り話をするからだ。では犬はどうだ。少なくとも、犬に嘘をつくことはできないだろう。もしその普段はおとなしいチ ョコちゃんとやらが、本当に吠えたのだとしたら? 本当に着物姿の老婆のような猫がこの町にいたなら? 巡査は時計を見上げた。金色の秒針が、進む音だけを残して止まって見えた。時刻は午後四時時になるところだ。 谷口警部も自分の腕時計を見やった。黒いシリコンのベルトが、暑苦しい。 警部はパイプ椅子を引き、座った。巡査と対面するかたちになる。 嫌な予感がして、数分が経過した——ような気がした。心なしか、西日がより強くなっている。 「さぁ、磯辺巡査、聞いてくれないか」 嫌な予感は的中のようだった。 警部は両肘をつき、祈るように指を組んだ。何かを懇願するような、困ったような顔は、まるで被害者の顔だった。 一瞬、金の秒針が西日を反射した。警部の黒い腕には、細い皺がたくさんあった。
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