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ある少女の証言
「この辺じゃ見ない人だったの。そしてうちのチョコちゃんがね、あ、うちで飼ってるラブラドールの名前なんだけど、普段は人懐っこくて吠えたりしないのに、その人めがけてすごく吠えたの。顔もなんだか本気で怒ってるみたいでね、ほんと、びっくりしちゃった。時間
? 夕方の六時くらいかな。夏はね、日が落ちて涼しくなってからお散歩するの。何でかって? 熱中症が危ないのと、アスファルトが熱いからよ。ほら、犬はお靴を履かないじゃない? 肉球を火傷しました、だなんてかわいそうなことがあったら大変だもの。チョコちゃんが吠えた人はね、着物のお婆ちゃんだった。ピンクと紫の混ざった感じの色のお着物だったな。頭には頭巾をかぶっていたから、ほら、時代劇とかにでてくる女の人がかぶってるみたいなやつ。だからきっと、ものすごい恥ずかしがり屋さんか、何か悪いことをして、顔を隠したかったのかも。あ、あとその人、きっと犬嫌いだわ。だって犬好きな人って、吠えられても平気じゃない? むしろ「いい犬だね」って大喜びしたりするじゃない。なんでチョコちゃんは吠えないのに知ってるかって? チョコちゃんの前に飼ってたチョコちゃんが、あ、その子はダックスフントだったんだけど、その子がよく吠える子だったのよ。あ、それでね、その着物のお婆ちゃんはチョコちゃんに吠えら
れるなり、飛ぶように素早く車道を横切って、路地に入っちゃったの。びっくりしちゃった。だって着物のお婆ちゃんが素早く動くんだよ? 若い人でも、着物に着慣れている人でも普通あんな動きできないもの。ああ! もしかしたらその人、くノ一だったんじゃないかしら。きっと若いくノ一が、お婆ちゃんに変装してたのよ。きっとそうだわ! 私ってなんて頭がいいのかしら! 私も将来、おじさんみたいなかっこいいお巡りさんになれるかしら」
先ほどとは違う人物がこの文章を書いたのは、明らかだった。聞いた話をそのまま文字に起こしている。先ほどの小説のような文章を誰
が書いたのか気になった。
「あぁ、寺島に書かせた」
警部は巡査部長の名前を出した。巡査より二歳年上の彼は、車内でのイベントにまったく来ない、 よくわからない男」として有名だった。
巡査は納得し、最後の一枚を読み始めた。
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