遥かの願い

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 ズウゥゥゥゥゥンッ… 何処か遠くで、また何かが沈む音がする。 他の音は、もう殆どしない。 目の前にあった黒焦げの大地と灰色の空は、今はもう雪色に塗り変えられている。  ガラガラガラッ… 辛うじて遺っていた建物の瓦礫の上で、私は独り、世界をただ眺めているだけ。 もう殆ど遺っていないだろう。 それ程の過ちを犯したのだ。 人間は。 争い続けた結果がこれだ。  (何百、何千年経っても変わらなかったな…。) ニャア !? 何も無いと思っていた瓦礫の中から、一匹の黒猫が現われた。  (この状況で生き延びたとは…奇跡だな…。) だがそれも僅かな時間でしかない。 この地球の生命は総て絶滅する。  カサッ! 猫は、どこからか見つけ出したのか、小さな餌袋を私の前に置いた。  「開けろというのか。この私に命じるとは…まぁ…いいだろう。」  (どうせこれが最期だろうからな…。) 袋に手を伸ばし、封を切る。  ザララッ… こぼれ落ちる僅かな餌。 それをただただ食べる猫。 小さな音が、ただ静かに流れてゆく。 そんな平穏が続いて欲しかった。 食べ終わったのか猫は私の方を見つめ、じっとしていた。  「もう何処へ行っても何も無い。君はどうする?遺りの時間を。」 すると、猫は背を向け、瓦礫の中へと再び入って行った。 気に留める事なく、私は再び世界を眺める。 最期を見届けるのは、何度目になるだろう。 そしてあと、何度あるのだろう。  ガサッ…! また何かが現れる音がした。 振り向いた先にいたのは、先程の猫だ。 何かを咥えている。 猫はゆっくり近づき、それを私に差し出した。 ーーー花だ。 一体、何処から見つけてきたのか。 一輪の、小さく美しい花。 先程まで、何処かで生きていたもの。  「ーーーお礼…ということか?」 ミャア! そう言って、猫は尻尾を揺らしながら私の膝の上で丸まった。  「ーーーまったく…まぁ…いいか…。」 こんな最期も。  (君もまた、何処かで生まれ変わるだろう。 君は何に成っているだろうか。 その世界は、優しく、美しく在るだろうか…。) 私は、願うように傍の猫を撫でていた。 彼の最期が訪れるまで。 ーーーーーーー  『ーーーあれ?今日はネコ君はいないの?』  『ネコ?あーアイツか。いつも通りどっかで丸くなって昼寝してんじゃね?』  『ねぇ、「ネコ」って何?』  『アイツのアダ名。ほら、古い歴史書に載ってただろ。とんがった三角耳と丸い長い尻尾の生えたふわふわの毛の小さな動物。ま、ほぼ伝説上の生き物になってるけど。』  『あ、でもさ、いつか現れるかもしれないよ?私達人間みたいに、長い長い年月を経てさ!』  遥か遠くで、誰かの声がする。 そうだな… あぁ…きっと… かつての地球(わたし)の様に …いつかーーー。
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