失うものは何もないから

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失うものは何もないから

 ハンス少年に連れられて街に着いたのは、午前の9時頃だった。  街の北側には聖堂があり、その裏手にかつては何かの商店だったと思われる廃墟がある。どうやらそこに悪ガキ達がよく集まっているらしい。 「ほんとに大丈夫?」  ハンスは不安そうにそう尋ねた。 「大丈夫。私は失うものも無いから」  明らかにハンスの頭にハテナマークが浮かんだのが分かった。  それはブラックジョークのつもりだったけど事実でもあった。もし私に家族が居たとしたらきっと躊躇っていただろうから。 「あ、ちょっと待って」  廃墟前に着くとハンスはそう言った。自転車が2台止まっていた。 「あいつら来てる」 「良かった。じゃあ行くよ。覚悟はいい?」  ハンスは顔を横に振ったが、私は構わず廃墟の壊れた扉を押して中に入った。
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