化猫

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 突然のお父さんの死にショックを受けるナベさんとお母さんでしたが、やるべきことはやらなければいけません。  一応、不審死なので警察の捜査が入った後、特に事件性はないということで遺体が返ってくると、ナベさん達は地元の葬祭センターでお葬式をあげることにしました。  でも、お金もかかりますし、ごく小規模に親族葬にしたため、会社関係の人なんかは後でお家の方へお線香をあげに来ることとなったんです。  その中に、お父さんと同じ課のコモリさんという中堅クラスの方がいたんですが、そのコモリさん、偶然、仏壇の前にいたサヨちゃんを見るなり── 「いやあ、なんか似てるんだよなあ……でも、そんな偶然ってさすがにないよなあ……」   ──と、なにかブツブツ言いながら、小首を傾げているんですね。  妙に気になったんで、ナベさんがそのコモリさんに「うちの猫がどうかしたんですか?」と尋ねてみると、しばらく腕を組んで考え込んだ後、すごく言いにくそうに、コモリさんは次のようなことを話してくれたんです。 「いや、亡くなられた人のことを言うもなんだし、親族に話すような話でもないんだけどね──」  そう言って切り出したコモリさんによると、ナベさんのところのサヨちゃんは、以前、同じ課にいたリュウさんという方が飼っていた猫にそっくりだというんです。  リュウさんがスマホの待ち受けにしていて何度も見ていたそうですし、ある用事でリュウさんの家をお訪ねした時にも会ったそうなんですが、ほんと、最初見た時には同じ猫なんじゃないかと思うくらいよく似ているらしいんですよ。  でも、このリュウさん、今は同じ会社にいないんですよ……なぜならリュウさん、上司からのパワハラを受けて、心を病むと自殺してしまったそうなんです。その上、ずっと二人で暮らしていたリュウさんのお母さんも、息子の死がショックで後を追うようにして首を吊って亡くなってしまったんだとか。  で、これは本当に言いにくそうに言葉を選んで教えてくれたんですが……そのパワハラをしていた上司というのが、どうやらナベさんのお父さんらしいんです。  なので、まさかそんなリュウさんの飼ってた猫がナベさんの家にいるなんてことはあり得ないと思うんだけど、それでも偶然とは思えないくらい、ほんとあの猫に似てるんだ……と、何か因縁めいたものを感じている様子で、コモリさんは話してくれたそうです。  この話を聞いた時、ナベさん、まさかお父さんがそんなことを…と反論したい気持ちもあった反面、なんだか妙に納得するものもあったって言うんですね。
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