1人が本棚に入れています
本棚に追加
春の陽気に誘われて、都築が仲間3人を連れ出し、近所の公園までやってきた。
いわゆるピクニックというやつだが、男だけというのがなんともしょっぱい。
しかしながら、当人たちはしょっぱくても、周囲の人間、特に女性陣にとっては目の保養。なにせこの4人組の見目はかなりの上位ランク。その証拠に、都築は先日も芸能事務所のスカウトを受けていた。ぼーっとしていても人目を惹く華がある。
ピクニックといっても、レジャーシートを敷いてランチボックスを持ってくるようなものではない。キッチンカーで買ったお弁当とコーヒーを、芝生に直座りしてもぐもぐ食べるだけだ。
それでも、男子高校生4人にとっては、それなりに楽しい時間。
「鮪、鮫、鯨」
小柄で釣り目の少年、翔が、彼らのすぐそばで日向ぼっこしている猫3匹を指さして言った。
「お前のネーミングセンス、最低だな」
くせ毛の隼人が、からかう。
「なんでだよ、わかりやすいだろ」
「どこがだよ」
「呼び名をつけるのは、親しくなる第一歩だし」
隼人に説明するように、翔は一匹一匹をゆっくり指さした。
「この赤っぽい毛で白いすじが交ざってんのが、マグロの刺身っぽいだろ」
「毛のふわふわ感で、とてもそうは見えん」
「こっちの顔が尖ってんのは、ほら、歯がギザギザでサメみたいだろ」
「ネコ科ならどいつもギザギザだろ」
「んで、こいつは、丸っこくてしっぽが平たく短いところが、クジラだろ」
「俺にはまったくそう見えん」
「なんだとー」
翔と隼人のこんなやり取りはいつものことだ。
都築はのほほんと二人を見て笑った。
鮪と名付けられた赤毛の猫が、そろりとこちらに近づいてきた。都築の隣りに座っていた短髪の少年、健が、ハムを手に猫を誘ったのだ。
赤毛は警戒しつつも、ハムの誘惑には勝てないようだ。奪い取るように口に入れると、もとの場所に戻ってハムハムと齧る。
「あいつ、メスだな」
都築がニヤニヤ笑いを浮かべた。健がそれを怪訝そうに見る。
「どうして?」
「お前は無自覚にモテるんだよ」
「いや、メス以外にもモテるだろ、健は」
隼人が口を挟んだ。
「むしろ女子よりそっちのほうにモテるっつーか・・・」
「そっち?」
健は色恋にはとんと疎い。だからこそ、うっかり勘違いさせてしまうのかもしれないのだが。
「鮫と鯨にもなんかやろーぜ。どれにしよーかなっ」
翔が自分の弁当の、おかずを選ぶ。
「平和だねー」
都築がカツをひと切れ口に入れ、猫たちに笑みを向けた。
「「「にゃー」」」
猫3匹が、呼応するようにひと鳴きした。
隼人、翔、健が顔を見合わせる。
「都築が一番手懐けてんじゃん」
しかも笑顔だけで。
最初のコメントを投稿しよう!