モテの極意、あるいは春先のピクニック

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 春の陽気に誘われて、都築(つづき)が仲間3人を連れ出し、近所の公園までやってきた。  いわゆるピクニックというやつだが、男だけというのがなんともしょっぱい。  しかしながら、当人たちはしょっぱくても、周囲の人間、特に女性陣にとっては目の保養。なにせこの4人組の見目はかなりの上位ランク。その証拠に、都築は先日も芸能事務所のスカウトを受けていた。ぼーっとしていても人目を惹く華がある。  ピクニックといっても、レジャーシートを敷いてランチボックスを持ってくるようなものではない。キッチンカーで買ったお弁当とコーヒーを、芝生に直座りしてもぐもぐ食べるだけだ。  それでも、男子高校生4人にとっては、それなりに楽しい時間。 「(まぐろ)(さめ)(くじら)」  小柄で釣り目の少年、(しょう)が、彼らのすぐそばで日向ぼっこしている猫3匹を指さして言った。 「お前のネーミングセンス、最低だな」  くせ毛の隼人(はやと)が、からかう。 「なんでだよ、わかりやすいだろ」 「どこがだよ」 「呼び名をつけるのは、親しくなる第一歩だし」  隼人に説明するように、翔は一匹一匹をゆっくり指さした。 「この赤っぽい毛で白いすじが交ざってんのが、マグロの刺身っぽいだろ」 「毛のふわふわ感で、とてもそうは見えん」 「こっちの顔が尖ってんのは、ほら、歯がギザギザでサメみたいだろ」 「ネコ科ならどいつもギザギザだろ」 「んで、こいつは、丸っこくてしっぽが平たく短いところが、クジラだろ」 「俺にはまったくそう見えん」 「なんだとー」  翔と隼人のこんなやり取りはいつものことだ。  都築はのほほんと二人を見て笑った。  鮪と名付けられた赤毛の猫が、そろりとこちらに近づいてきた。都築の隣りに座っていた短髪の少年、(けん)が、ハムを手に猫を誘ったのだ。  赤毛は警戒しつつも、ハムの誘惑には勝てないようだ。奪い取るように口に入れると、もとの場所に戻ってハムハムと齧る。 「あいつ、メスだな」  都築がニヤニヤ笑いを浮かべた。健がそれを怪訝そうに見る。 「どうして?」 「お前は無自覚にモテるんだよ」 「いや、メス以外にもモテるだろ、健は」  隼人が口を挟んだ。 「むしろ女子よりそっちのほうにモテるっつーか・・・」 「そっち?」  健は色恋にはとんと疎い。だからこそ、うっかり勘違いさせてしまうのかもしれないのだが。 「鮫と鯨にもなんかやろーぜ。どれにしよーかなっ」  翔が自分の弁当の、おかずを選ぶ。 「平和だねー」  都築がカツをひと切れ口に入れ、猫たちに笑みを向けた。 「「「にゃー」」」  猫3匹が、呼応するようにひと鳴きした。  隼人、翔、健が顔を見合わせる。 「都築が一番手懐けてんじゃん」  しかも笑顔だけで。
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