仏の心

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仏の心

『ちょっくら下界にでも出かけてみるかな』仏様は言いました。あまりに人間達の振る舞いが酷く、見ていられませんでした。  ただ仏様本来の姿では人間達に崇められるだけ。猫に姿を変えてみよう思い、猫に化けました。  仏様が降りた先はひと気のないキリスト教会でした。教会の信者達は皆穏やかでした。仏様は思いました。『皆、心が純粋だなぁ…宗教は違えど、とても勉強になる。しかしながらこれでは、私が降りたった意味はどこにもないわ』  と、ある牧師が猫に変わった仏様を見て言いました。 『あぁ…美しい猫さん、今日も我らを御守りくださってありがとうございます。さぁ、どうぞこちらでゆっくりお過ごしください』仏様の眼には涙が溢れていました。  ただ仏様はあまり泣きたくありませんでした。あまり泣きすぎると理性が乱れて、しまい猫の姿から仏の姿に戻ってしまうからです。 仏様は必死に涙を堪えました。  ただ仏様は思いました。いつも悩める者たちの悩みを何も言わずに聴いているけれど、私だって感動したり、悲しかったり、場合によっては怒ったりもしたいと。  仏様はもういっそのこと話を牧師に話を聴いてもらおうと思いましたが、想いを伝え術が無いことにようやく気がつきました。 『そうか私は仏の身だったな。どんなに想いを馳せても伝える術はない。ただ佇むしか無いのだな』  すると牧師が思い詰めた表情で話を始めました。『猫さん、私はいつも悩める者たちに神様からの教えを説いているんですが、なかなか日々の自分の心と向き合う時間が無いのです 。教えてください猫さん』と言いました。  仏様は牧師の言葉を聴いて感動し、少し涙をこぼしてしまいました。  すると猫は仏様の姿に戻ってしまいました。  ふと横を見ると、そこには全知全能の神、『イエス・キリスト』の姿がありました。 なんと牧師様の本当の姿はキリスト様だったのです。仏様は口をぽかんと開けたまま、唖然としていました。『仏様ではありませんか!いやぁ〜奇遇ですな』キリストはさらに続けて『まあ、我々も大変ですな。』とゆっくりと言ったのでした。  仏様は思いました。『みんなそれぞれの立場では言えない悩みを抱えているものだなぁ…。』と。  二人はその晩じっくりゆっくり、宗教の垣根を超えて、話し合いました。  すっかり仲良くなった二人はお互いを称え合いながらいつの日か再会しようと約束を交わしたのでした。 おしまい。
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