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第27話 暴かれた秘密(別視点)
張りぼて、という言葉に、マルティの心臓が跳ね上がった。すぐさま顔を覆って鳴き真似し、婚約者の同情を誘う。
「ひ、酷いです……メルトア様……」
「お婆さまとはいえ、僕の婚約者の冒涜は許しませんぞ!」
マルティを守るように、リズリーがメルトアの前に立ちはだかった。孫の言葉に、メルトアの瞳がさらに細められる。
「リズリー、お前は何故勝手に、エヴァ・フォン・クロージックと婚約破棄をし、彼女を追放したのです?」
「え、エヴァは、僕の婚約者に相応しくなかったからです!」
「……婚約者に……相応しくない?」
「そうでしょう! エヴァは、精霊魔法が使えない無能力者! それも田舎くさい生意気な女だ。それに比べて、妹であるマルティは美しく、聖女と呼ばれるほど優れた精霊魔法士。どちらがバルバーリ王国の未来を担う女性か、一目瞭然でしょう! もちろんエヴァには、マルティの侍女として仕えさせてやると、温情をかけましたよ。しかしあの女は、彼女の優しさを無碍にし、追放を選んだのです。自業自得ですよ」
「エヴァの行方は……」
「僕が知るわけないでしょう。どうせ、どこかで野垂れ死んでいるでしょうね!」
「……お、お前は、なんてことを……」
メルトアの身体がぐらりと揺れた。傍にいた護衛が、すぐさま駈けより、彼女の身体を支える。
リズリーには分からなかった。
何故、あの祖母が、エヴァのことでこれほど取り乱しているのかが。
護衛に支えられながら、メルトアは頭痛がするとばかりに、額に手を当てた。
そしてマルティに視線を向けた。
「マルティ・フォン・クロージック、お前は、精霊魔法が使えず困っている貴族たちに、多額の礼金や、クロージック家への協力と引き換えに、力を貸しているのだそうね?」
「そ、それは……」
「え、マルティ。君は、皆から見返りを、求めていたのか……?」
祖母の言葉に、リズリーが目を見開く。
今まで、クロージック家が、貴族たちから協力や多額の金を要求してきたことを、リズリーは知らなかったのだ。多少は礼を受け取っていたとしても、善意の行動かと思っていたため、メルトアの言葉は寝耳に水だった。
彼の言葉に、マルティは慌てて首を横に振った。
「し、知りませんっ! 私は、ただお父様の言うとおりにしていただけで……」
もちろん、父が金や協力を要求していたことは知っている。その恩恵を、自分だって受けた。だが、それは父が勝手にやっていたことで、自分には関係ないことなのだ。
父の行いで、今まで築き上げてきたリズリーとの関係を、せっかく奪った婚約者の座を、ぶち壊されたくない。
縋り付き否定するマルティと、彼女の言葉にどう反応を返していいのか困惑しているリズリーを見ながら、メルトアは意地悪く笑った。
「まあいいわ。そう言えば、マルティ。お前は最近、ずっと体調が悪いからと、貴族たちの要請を断っているようね? でも本当に悪いのは、体調なのかしら?」
「な、何が仰りたいのですか、メルトア様……」
心臓が、緊張と恐怖で、早鐘を打っている。
リズリーの服を掴む手が、汗でじっとりと湿っているのを感じながら、マルティは上ずった声で尋ねた。
彼女からの問いに、メルトアはスッと瞳を細めた。
「本当は、精霊魔法を使いたくても使えないのではなくて? ……エヴァが傍にいないから」
「ど、どういうことですか、お婆さま!」
リズリーは、服を掴むマルティの手を払いのけると、祖母に向かって一歩前に出た。
何かしてはいけない失態を、自分は犯したのではないか。
今まで、自分のすることに、決めたことに間違いはないと驕っていた気持ちが、スッと冷めた。代わりに、指先から腕にかけて、寒気が上がってくる。
表情が固まっているマルティを、メルトアが睨みつける。
「この張りぼて女はね。エヴァの力を利用し、聖女と呼ばれる程の強い精霊魔法を使っていたの。この女自体は、まあ普通の人よりも優れた精霊魔法士ではあるでしょうけど、元々皆が賞賛するほどの力は持ち合わせていなかったのよ」
「違います! あれは全て、私の力……」
「なら、今ここで、城中の木々に活力を与えてみなさい。聖女と謳われるお前の力なら、簡単でしょう?」
「そ、それは……」
「できるわけないでしょうね? エヴァが傍にいなければ、ギアスで大量の精霊を捕えることができないのですからね」
「――っ‼」
真実を言い当てられ、マルティは言葉を失った。
リズリーが、低く問う。
「……お婆さま。エヴァの力とは一体何なのですか? あの無能に、何の力が……」
メルトアはふんっと鼻を鳴らすと、腕組みをし、自身の欲望のために、無実の女性を追放した愚かな二人に告げた。
「精霊魔法を使うために必要となる精霊たち。それを生み出していたのが、お前が無能だと呼んでいた、エヴァ・フォン・クロージックだったのですよ。彼女は……この国の精霊魔法の根幹を、担っていたのです」
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