山村と大野2

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窓際の席は最高だ。 春の暖かい風が教室へと入る。 俺の特等席から窓の外を見てみる。 校庭の桜が舞っていた。 手に持っていたあんぱんを一口かじる。 「…」 最近大野は俺とお昼を食べることが多いけど、この違和感。 いつものように前の席に座ってこちらを凝視している。 「…何?」 痺れを切らした俺は一言聞いてみた。 大野はズーズーと飲んでいたコーヒー牛乳の紙パックを右手で潰す。 「んーん、なんでも。」 「なんでもないことないだろ。じっと見て、何か話したいことあるの?」 「いやいや、風気持ちいいよな。」 「ん?」 「そんな顔してるから。」 「まあそれは思ってたけど…」 最近なんか会話が噛み合ってない気がする。 俺はあんぱんを一気に口の中へと放り込む。 「なあ大野!」 突然現れると大野に泣きついているこの男はサッカー部部長田口だ。 田口は本当に明るくてかなりいい奴というクラスで言えば人気者。 田口は大野に肩を組みながら言った。 「来週練習試合あるんだよ、手伝ってよ。」 「…」 大野はあからさまに嫌そうな顔をしている。 「頼むよ!負けたくないんだ。」 「俺もうサッカー部じゃねえし。」 「わかった、ラーメン奢るから。」 「えーやだ。」 大野はハッキリと嫌と宣言する。 こいつのこういうところがすごいよな。 「なんでだよー!」 田口はしゅんとしながらどこかへと歩いて行った。 なんだか可愛そう… 「練習試合くらい出れば?」 大野はサッカー部を急に辞めた。去年の夏突然辞めた。どうした、って聞いても教えてはくれなかった。 「俺休みの日はバイトだし無理。」 どうでも良さそうにスマホをいじり出した。 またパズルゲームでもやっているのだろうか。 「そう…サッカーやってる時の大野、めちゃくちゃかっこよかったのに。」 何気なく言った一言だった。 「えっ…かっこいい…?」 大野は目を見開いて口も半開きになっている。 すごく驚いているような、そんな顔だった。 「う、うん?うん。」 「マジで?」 「…お、おう。」 段々と大野の顔が笑顔になっていく。 「まあ練習試合くらい出てやらない事もないかなー。」 「…」 最終的にはすごく嬉しそうな笑顔になった。 よく分からないけどこれで田口が救われる。 「じゃあ練習試合見に来る?多分うちの高校でやると思うし。」 めちゃくちゃ笑顔で問われる。 「…あー、バイトがなかったらな。」 「やった!絶対だからな、終わったらどっか飯食べ行こう。」 「おう…」 「よし、田口に言ってくる!」 俺の頭の上にはハテナマークが何個も出ていると思う。 楽しそうに田口と話しているのを見た。 まあいっか、田口も嬉しそうだし。 (風が気持ちいいなあ)
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