貢ぎ物にされた出来損ない令嬢は、超歓迎ムードに引いてます

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 ユリシアことユリシア・ガランはリンヒニア国の5本の指に入る名門貴族の令嬢である。  しかしその出自は母親は平民。父親は貴族であるが祖父と呼ぶべき年齢差がある。  端的に言えば、隠居間近だった侯爵家当主の父が出入りの針子見習いを見初めて妾にしたのだ。しかし、すでに父ローレムの妻は他界していた為、不倫関係ではない。  ちなみにローレムは再婚を望んだけれど、母シノエは大変弁えた性格で自分の意思で妾という立場を選び、ガラン邸ではなく別宅で過ごすことになった。  といっても二人は親子ほどの年の差がありながらも、オシドリがその座を譲るほど仲が良かった。  ローレムは足繫く別宅に通い、時には泊まったりして、イチャイチャしたりして。ほどなくして齢60になるローレムは、まだまだアッチの方が現役だったようでユリシアが誕生した。  ……というエピソードを持つユリシアは、とにかく望まれて生まれた子供だった。  そしてお爺ちゃんのような父親とおっとりとした母親から沢山の愛情を貰いすくすくと生きてきた。  でも、人生楽あれば苦あり。神様はとんでもない意地悪をする。  まずユリシアが12歳になったと同時にローレムが他界した。後を追うようにシノエも。  幸いローレムは後に残される妻と娘の為に遺産を残してくれていたし、それらの面倒な手続きをしてくれる人間も手配済みだった。  そのおかげでユリシアは別宅と食うに困らない財産を相続することができた。……そう。できたのだが、未成年であるユリシアには後見人が必要で、その男がクズだった。  ユリシアの後見人は、ローレムの息子でありガラン家の当主ノヴェルだった。  ガラン家は名門貴族であるが、ローレムは当主の器ではないようで彼の代になってから財政は芳しくなかった。  そんなわけでノヴェルがユリシアが相続した財産に目を付けるのはある意味当然で、本宅に引き取るという名目でさっくり頂戴したのも、ある意味予想通りだった。  ガラン家の本宅に引き取られたユリシアは、大事にされているとは言い難い生活だった。  そんな生活が続くこと7年。  よくもまあ、あれだけの仕打ちを受けてグレることなく生きてきたとユリシアは自分を褒めてあげたい。 「─── ユリシア様、ここはお寒いでしょう。さぁどうぞ中に」  ぼぉーっと自分の半生を振り返っていたユリシアは、一番真ん中にいる壮年の男性から声を掛けられはっと我に返った。 「……は、はい」  にこにこと笑う壮年の男性はユリシアと目が合うと「執事のブランです」と自己紹介までしてくれた。 「ユリシアです」 「存じております」  間抜けな挨拶にもブランは、変わらず人の好い笑みを浮かべてくれる。   久しぶりに温もりのある対応を受け、ユリシアはじんと胸が熱くなる。 (良い人だ。うん、良い人……良い人そうなんだけどねぇ……うん)  7年もの間、そこまでする!?と、詰め寄りたくなるほどの扱いを受け続けたユリシアは、そう簡単に人を信じることができない。  ただ素直に好意を受け取れないのには、もう一つ理由がある。  それはこの屋敷の主がグレーゲル・フォル・リールストンであること。  彼はこう呼ばれている─── ”血濡れの大公閣下”と。
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