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ラーシュが目を逸らしても、ユリシアは睨み続けている。
ユリシアの名誉のために言っておくが、彼女は執念深い性格ではない。ただ、なあなあで終わらそうとする側近が、あまりにズルくて腹を立てているのだ。
たった一言、”ごめん”と口パクをしてくれたら、それで終わりにしようと思っている。なのにこの側近、絶対に目を合わせないという強い意思しか伝わってこない。
ユリシアの眦が、ますますつり上がる。だが、ここでカチャンとフォークを乱暴に叩きつける音が食堂に響いた。
「食事に集中しろ」
「……っ」
低く唸るような声で言われて、ユリシアはぐっと唇を噛む。
(あ、そう)
どうやら大公閣下は、ラーシュが虐められていると判断したのだろう。そしてあろうことか貢ぎ物である自分を責めている。
(あーらまあ。部下には大変甘いんですねぇー)
ユリシアは心の中で嫌味を吐く。でも、彼が部下に優しいのは事実だ。
だって、カーテンに絡まったモネリとアネリーを助けてくれたから。
あのまま放置していたら、二人は怪我をしていただろう。かなり強引なやり方で、他にやりようはなかったのかと言いたいが。それでも、感謝はしている。……侍女二人に関してだけは。
そうして気付く。
自分だけは部外者なのだと。
でも別にそこに傷付いたりはしない。そんなもんだ。差別するグレーゲルが悪いわけじゃない。他の人たちが良い人すぎるだけなのだ。
それに今さら悲しい気持ちになったりもしない。ガラン家の本邸に居たときだって、そんな扱いだった。自分勝手に呼び寄せておきながら、自分勝手に邪魔者扱いをする。自分勝手極まり無い仕打ちはなれっこだ。
何より、そもそも自分はグレーゲルに好かれたいだなんて思っていない。理不尽な理由で殺されたく無いだけだ。
だからユリシアは、食事を再開する。まったく味のしない食事を。
***
不貞腐れた表情をしながら料理を口に含むユリシアを見て、グレーゲルは大人げないことをしたと後悔している。
ただ自分がここにいるというのに、他の男に目を向けるユリシアに対して得もいわれぬ不快感を覚えてしまったのだ。
グレーゲルは淡々と食事を進めているが、本当はものすごく動揺している。
生まれて初めて覚えたこの感情は、自分には一生縁の無いものだと思っていたから。
その感情の名前は───
「......嫉妬」
声に出したのは、グレーゲルではなく、その側近であるラーシュだった。
「黙れ」
ギロリと睨みながらラーシュに口を閉じるよう命じれば、なぜか対面にいるユリシアが両手を口に当てて「喋りません」アピールをする。
(違う。そうじゃない!そうじゃないんだってば!!)
簡単そうにみえるのに、何一つ上手くいかない現状に思わず歯軋りをすれば、ユリシアは涙目になる。
(あーもーだから、違うんだ!そうじゃないんだ!!)
などと心の中で叫びながらグレーゲルは頭を抱えたくなった。
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