初めまして、血濡れの大公様 ※安全な距離を保ちつつ

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 ユリシアが首をふるふる振ること少し前─── 「───……ユリシアが離れから出てこない?」  北山の魔物討伐を終えたグレーゲルは、単身一足早く転移魔法で帰宅した。  そして自室に戻ってすぐ執事ブランからの報告を聞いて、眉間に深く皺を刻んだ。その拍子に少し長い前髪が額に流れボルドー色の瞳を隠す。 (……自分が出迎えなかったことに気を悪くしているのであろうか。それとも北の地が身体に合わず外に出ようとしないのだろうか)  討伐に向かう直前、窓越しに見たユリシアの姿はとても華奢で儚かった。ついでに言うとこれ以上無いほど美しかった。  本来ならすぐさま彼女の元に駆け寄り、歓迎の言葉を述べたかった。  しかし間が悪く、グレーゲルは魔物討伐に向かう直前で女性の前に立てるような姿ではなかった。  何事も第一印象が大切だ。  大公爵として己の立ち位置を理解しているグレーゲルは、人の見た目が下す判断に鋭い。そして受けた評価を覆すのは容易いことでは無いということも把握している。  だからグレーゲルは、ユリシアと会うことを避けた。ユリシアが生まれ育ったリンヒニア国は典型的な貴族社会だったから。  リンヒニア国は優雅さに重きを置き、剣術を極める者は労働者とみなされる。同盟国である自国マルグルスをなんだかんだ言って野蛮大国だと見下している。  無論、国にはそれぞれ文化があり、歴史がある。  どれに重きを置くかなど、他国の勝手であり、陰口程度で済んでいるなら自分が口出しする権利は無い。  とはいっても、個人的にユリシアに悪印象を与えるのは避けたかった。たとえユリシアがそういう目で見ていなくても、細心の注意を払うのは男として当然だとグレーゲルは思った。  ……そんな自分にドン引きした。  グレーゲルは冷徹な性格であることを自負しているし、これまで一度だって無条件に誰かに好意を寄せることなど無かった。  言葉を選ばなければ、異性関係において”来るもの選び、去るもの追わず”のスタイルを貫いて来た最低野郎である。  だからこそ結婚など面倒事でしかなく、いっそ独身のまま適当に出来の良い遠縁の子供を後継ぎにすれば良いとすら考えていた。 (なのに、自分が服装一つでここまで異性に気を遣うなどとは……)  世も末だ。  なんてことを思ったかどうかは内緒であるが、グレーゲルがユリシアとの出会いを大切にしたいと思っているのは確かなこと。  あと自分が魔物討伐中、ユリシアがずっと別宅に引きこもっていたという事実に大変焦っていたりする。  なぜならグレーゲルは魔物討伐に向かう直前、屋敷の全てを取り仕切るブランに対しこう命じていた。 「俺が戻るまで、彼女に最高のもてなしをしておくように。まかり間違っても、は断じてするな。あと聞かれても聞かれなくても、過去の自分の女性遍歴は口が裂けても喋るな」と。
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